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安倍元首相との最後の会話

編集長ニュースレター vol.12

新谷 学 (株)文藝春秋 取締役 文藝春秋総局長
ニュース 社会 政治 国際

 いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 2月は電子版のオンライン番組が大変盛り上がっています。

 1ヶ月間で11本! しかも各番組ともタイムリーかつ中身の濃い議論が展開されていて、視聴者の皆さんからも活発に質問をいただけるようになってきました。

 ざっと番組名を列記してみると、斎藤幸平さんと松竹信幸さんの「日本共産党はなぜアップデートできないのか」(松竹さんが共産党を除名されたばかりということもあり、多くの方に見ていただくことができました!)、安田峰俊さんと高口康太さんの「台湾危機と『認知戦』の正体」(安田さんは台湾の軍事演習取材から帰国直後で、臨場感たっぷりな内容)、高瀬隼子さん、李琴峰さん、宇佐見りんさんの「芥川賞と私たち」(芥川賞作家お三方の初共演で、新たな視聴者の方にも見ていただけました)。

 他にも落合陽一さんと井上智洋さんの「chatGPT」論や、東浩紀さんと先崎彰容さんの「2023年の戦争と平和」論など、とにかくバラエティに富んでいます。

 私も2月14日に、「安倍晋三秘録」を連載中の岩田明子さんと一緒に「最も近い記者と語る安倍晋三元総理の光と影」に出演しました。詳しくはぜひ番組を見ていただきたいのですが、かなり踏み込んだ話ができたと思います。岩田さんはどうやって安倍さんに食い込んでいったのか、突然の訃報に接した時の状況、事件前日に安倍さんと電話で話した内容など、きわめてディープ。時には組閣をめぐる「ここだけの話」まで飛び出して、私も初めて聞くエピソードがたくさんありました。

 視聴者からの質問のレベルも高く、いま話題の「安倍晋三回顧録」をどう読んだか? とか、問題発言で更迭された岸田総理の秘書官に関して、オフレコ破りをした記者をどう見るか、など、おかげさまでさらに議論が深まりました。こうした視聴者の皆さんの「参加」こそが、私たちのオンライン番組を育ててくれるのだと実感した次第です。

 最後に私自身の安倍さんとの関係を記せば、2006年第一次政権が発足した頃は「文藝春秋」編集部で政治コラム「赤坂太郎」などを担当するデスクで、安倍さんと食事をしたり、インタビューをさせていただくなどすこぶる良好な関係でした。

 2012年に「週刊文春」編集長に就任すると当時野党だった安倍さんから「おめでとう!」と電話をいただき、食事をご馳走になりました。ただハネムーンは長くは続かず、安倍さんが二度目の総理になり、批判記事を書きはじめると、最初の頃こそ「ひどいじゃないか」と電話があったものの、私も「親しき仲にもスキャンダルですから」と言い返し、関係は完全に断絶してしまいました。岩田さんによれば、「彼には食事もご馳走したのに、この記事ひどいよね」と「週刊文春」を突き出したこともあったそうです。

 2020年に「文藝春秋」編集長になり、関係修復を試み、2回インタビューさせていただきました。インタビューが終わり別れ際、「久しぶりに食事でも行こうね」と話したのが最後の会話になってしまいました。

 文藝春秋編集長 新谷学

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース 社会 政治 国際