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週刊誌の先輩としての鈴木敏夫さん

編集長ニュースレター vol.28

新谷 学 (株)文藝春秋 取締役 文藝春秋総局長
エンタメ メディア 映画

 いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 本日19時から配信予定のオンライン番組「編集長が聞く!」第4回のゲストはスタジオジブリ社長の鈴木敏夫さんです。題して「鈴木敏夫はどう生きるか」。

 なぜこのタイミングでスタジオジブリの社長に復帰したのか?

 7月公開予定の宮崎駿さんの新作「君たちはどう生きるか」の中身は?

 聞きたいことは山ほどありますが、何より私は鈴木さんの生き方に興味があります。

 鈴木さんと初めてお会いしたのは、2012年、私が「週刊文春」編集長になって間もない頃でした。ヒット作連発の辣腕プロデューサーとの対面に、会食の場でもいささか身構えていたのですが、鈴木さんは徳間書店で駆け出しの頃「アサヒ芸能」記者だったこともあり、週刊誌談義で盛り上がりました。編集部ではすぐにバクチを覚えさせられたことや、ヤクザ取材の苦労、さらには徳間書店創業者・徳間康快さんのとびきり豪快なエピソードなど、臨場感たっぷりに語っていただいた記憶があります。

 

 翌日、鈴木さんからいただいたメールには〈昨夜、私は週刊誌記者でした〉とありました。

 鈴木さんは「アサヒ芸能」から、「アニメージュ」編集長などを経て、スタジオジブリに移籍しますが、その間、宮崎駿さん、高畑勲さんという二人の天才に出会ったわけです。

 私は「週刊文春」編集長時代、ドワンゴの川上量生さんに連載をお願いしましたが、川上さんを紹介してくれたのが鈴木さんでした。

 鈴木さん、川上さんと一緒に行きつけのきりたんぽ鍋の店で食事した時の会話は、今でもよく覚えています。

 私が鈴木さんに「川上さんのような面白い人を見つけてくるのはさすが天才プロデューサーですね」と言うと、鈴木さんはこう答えたのです。

「僕は天才じゃないですよ。ただ天才を見つけたり、天才と付き合ったりするのは得意ですけど」

 それこそがプロデューサー、編集者にとって、最も大切なことだと強く印象に残りました。しかも、天才はめんどくさい人が多いのです!

 私は勝手ながら、鈴木さんの原点は週刊誌にあるのではないかと考えています。

 キッタハッタの週刊誌の世界では、誰もが尊敬する人物の愚かな素顔や、大悪党の思いもよらない優しさに触れることがあります。人間にはいろんな顔があり、薄っぺらな正義だけでは通用しない。まさに不条理の連続を体験することになります。

 そこでは何より人間を面白がる感性、そして人間の才能を見抜き、それを記事として「形にする」力が問われます。

 さて、本日は人間・鈴木敏夫にどこまで迫れるか――。

 私自身が大変楽しみにしています。

 文藝春秋編集長 新谷学

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : エンタメ メディア 映画