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『同和のドン』と『兜町の黒幕』

編集長ニュースレター vol.21

新谷 学 (株)文藝春秋 取締役 文藝春秋総局長
ニュース 社会 政治

 いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 今週はオンライン番組が4本! 私はそのうち3本に出演しています。三浦崇弘さんと今月号の大特集「私の人生を決めた本」を語り合い「編集長が聞く!」第2弾では、鈴木おさむさんに「小説SMAPと芸能界とテレビの未来」について斬りこみました。

 そして本日19時からは、地上波はもちろん、BSでも決してオンエアできないであろう番組が配信されます。タイトルは「同和のドンを語ろう」。異例のベストセラーとなっている『同和のドン』(講談社)の著者、伊藤博敏さんと、本誌で「部落解放同盟の研究」を連載していた西岡研介さん(以後、研ちゃん)との3人で日本社会の暗部に光を当てます。

「同和のドン」こと、自由同和会京都府本部会長の上田藤兵衛氏は、本のサブタイトルにあるように、「人権」と「暴力」の戦後史を生き抜いてきた人物です。日本の人権運動団体としては部落解放同盟の方が主流ですが、この上田氏は知る人ぞ知る大物。研ちゃんも取材を通じて付き合いがあるとのことです。

 オンライン番組では上田氏の正体に迫りつつ、日本の被差別部落解放運動の現在、過去、未来を掘り下げます。

 実は、博敏さんと研ちゃんと私は、かつて定期的に会食をする関係でした。キッタハッタの週刊誌の世界でも最もディープで危ないネタを追い掛け回していた3人の結節点となったのは、今は亡き「兜町の石原」こと、情報誌「現代産業情報」発行人の石原俊介さんです。

 事件は「表」と「裏」の狭間で起きることが多いのですが、石原さんは裏社会に滅法強かった。暴力団、総会屋、事件師から、警察、大企業幹部、大物政治家までが出入りしている彼の兜町のオフィスには、ネタを求めて新聞、テレビの社会部記者や週刊誌記者が日参していました。

 石原さんは、上田氏とほぼ同世代。群馬から集団就職で上京し、共産党に入党、ソ連に留学するほどの秀才でしたが、その後、紆余曲折あり、「黒幕」と呼ばれる存在になったわけです。博敏さんの『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館文庫)には、その半生が克明に綴られています。

 小柄ですが、眼光鋭い石原さんの口癖は「なめてんのか」、「あんなのはひとっぱたきだ」。好き嫌いも激しかった。兜町の事務所で会えるのはお気に入りの記者だけ。以前、このニュースレターに書いた「赤旗」の山本豊彦さんを紹介してくれたのも石原さんでした。

 石原さんは夜な夜な銀座に繰り出し、さまざまな組み合わせの「4人会」を開いていました。博敏さんと研ちゃんと私は、そのうちの一つのレギュラーメンバーだったのです。

 今日のオンライン番組では、まだコンプライアンスという言葉がなかった時代の、事件取材の暗部にも踏み込みます。

「暗部」と聞くと血が騒ぐ方(笑)は、ぜひご覧ください。

 文藝春秋編集長 新谷学

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース 社会 政治