インスタグラム、Twitter、YouTube、TikTokなどのSNSは、それぞれ全世界に数億から数十億人ものユーザーをもつ。政府や企業もコミュニケーション手段としてSNSに依存する現在では、その影響力は超国家的なものとなり、もはやSNSが存在しない社会を想像できないほどだ。
本書は、日常に深く浸透するSNSに、1988年生まれの著者が哲学的に迫る1冊である。
近年では、個人情報の不正利用や若年層によるSNSへの依存が問題視されることも多く、周囲の反応を気にする“承認欲求”という言葉も一般的なものになった。多くの「いいね」を集める他人と比較し、自分が認められていないと考えてしまう人も少なくない。
「ただし、承認欲求を高めるSNSは不健全だからやめるべきだというのは短絡的にすぎます。『他人の評価に振り回されずに自律しろ』といった主張がよくなされますが、むしろ“自分らしさ”は他人からの評価があって初めて成立する。本書ではヘーゲルの議論を敷衍しながら、SNSにおける健全な相互承認のあり方を考えました」
本書はSNSにある可能性を掬い取る一方、その限界も指摘する。その1つが#MeToo運動で有名になったハッシュタグデモだ。ワンフレーズの合言葉でネット上で連帯を試みる運動である。
「ブラック・ライブズ・マター運動など、社会に大きな影響を与えた例もありますが、多くの場合は支えとなる組織が存在せず、運動が長続きしません。
またこうしたSNSにおける運動には一方的に他人を糾弾する傾向が少なくない。哲学者のハンナ・アーレントは、寛容さを持って他者と向き合い、目的を掲げて運動をする重要性を説きました。まさに、今のSNSに足りないものです」
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source : 文藝春秋 2023年7月号