著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、長嶋有さん(作家)です。
母と会えなくなった。
少し前までハワイに行こうと誘っていて、母も乗り気だった。旅行代理店で見積もりまでとってもらっていたところにコロナが広まった。
閑散としたワイキキビーチの報道をみたらもう「行かない」と。まあ、コロナの広まったあのころは、誰もが同じ気持ちになったろう。
しかし、その「行かない」という言葉には「コロナがある程度収まるまでは」という前置きが付いていそうなものだが、母の場合は違った。肉体が硬質化し重量を増して押しても動かない、みたいな気配を醸しだしての「行かない」だ。そろそろ行ってみない? と誘うのを僕はもう勝手に諦めている。
コロナ禍でも埼玉で暮らす親戚の葬儀にはさすがにやってきたが、一周忌のとき「行くのやめとくわ」とメッセージが届いて、硬質化した重さをそこでしみじみ感じ取った。加齢とともに移動や人交わり(慣れた親戚とのそれですら)が億劫になるということもあろうが、「密を避ける」気持ちが、仕方なくではない、性にあってたから積極的に引き続いているようにも思える。
僕からすると子(母からすれば初孫)が生まれて、一番あどけなくかわいいころにたくさん会っておいてほしい(それもまた、フライは揚げたてのうちに食べてほしいみたいな、いたって浮薄な孫の捉え方なのだが)。
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source : 文藝春秋 2024年3月号