日本にしか果たせない「世界史的使命」とは——
今年の3月4日には日経平均株価が一時、4万円を突破してバブル期を超える史上最高値を更新しました。日本には今、経済の見通しについて、どこか楽観的な雰囲気が漂っています。しかし、私は現在、世界経済が置かれている状況を楽観視していません。今、私たちが目撃しつつあるのは、第二次大戦後の「グローバル化」の中断と、それに伴う混乱だからです。
グローバル化は、全世界の所得を成長させ、途上国の貧困を激減させ、大いなる「恩恵」をもたらします。19世紀の英国の経済学者リカードが理論化した通り、各国が比較優位なものを輸出し、比較劣位なものは輸入することによって、世界全体の生産性が上昇するからです。だが、まさにそのことが必然的に各国内に「敗者」を生むことになります。なぜならば、比較優位な産業が繁栄する裏で比較劣位な産業は衰退し、その産業が必要としていた労働者の賃金や資源の価格が下がってしまうからです。それは、これらの「敗者」を支える政策や制度を「勝者」が提供しないと、「敗者」の反乱が起こり、グローバル化は破綻してしまうことを意味するのです。
「ロンドンの住人は朝のティーをベッドで飲みながら、電話一本で地球上にある様々な製品を好きなだけ注文し、近日中に家の玄関先に配達されることを期待できる。また、地球上のどのような天然資源や新規事業に対しても自分の資産を投資し、何の努力も苦労もなく、その将来の収益や配当の分け前を手にすることができる」
これはジョン・メイナード・ケインズが『平和の経済的帰結』(1919)の中で、第一次大戦前のイギリスの中産階級の生活を描いた文章です。「電話一本」を「クリック一つ」と置き換えれば、現代と変わりません。
「グローバル化」は2度あったのです。「第一次」は1820年代から始まりました。鉄道や電信などの交通機関や通信技術の発達によって、世界の貿易量や資本取引量が飛躍的に増え、その規模は現代に匹敵します。
クズネッツの法則とモンテスキューの法則
第一次グローバル化はイギリス帝国の覇権の下で進みましたが、それは「自由主義」の時代でした。福祉政策や労働運動などの萌芽もありましたが、結局、その自由主義が「敗者」に対する配慮を失わせ、その不満が国内政治や国際関係を不安定化させ、1914年の第一次大戦の勃発によって終焉してしまいます。その後、ファシズムの台頭、世界大恐慌、最終的には第二次大戦という暗黒の時代を招いてしまったのです。
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