存在がある、それがただある 丸木スマの絵

ふれる 日本の美を訪ねて 第4回

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へろへろの線

 丸木スマは、画家の弓指寛治さんから教えてもらった。それ以来、好きな画家をたずねられると、宗達とスマ、と答えている。さいしょにみたのは、お寺の絵だった。仰天して、しばらく画面を大きく小さく画角を何度かかえながら、へろへろの線をみていた。

 鳥が呑気に飛んでいるお寺。雪を被ったお寺はゆがんでいて、つんと押したら、そのまま倒れそうでもある。飯椀がかさなっているようにもみえる。垂直水平なんてなにもないぐにゃぐにゃとなにもかもゆがんでいるのに、よくみて描いている、時間を感じる。

 もう一枚の塔の絵も、背景の薄墨の線がすばやく勢いよく太く走っている。風が吹いていることをあらわしているのか曇天のもやなのかわからないけれど、べつにたいして意味がないのかもしれないけれど、ざざっとした線によって、広くつづく景色を想像する。

 スマは、握力がないわけではないと思うのだけれど、筆致がへろへろとしてまっすぐじゃないのに、絵自体が、靭い。ちいさなアイフォンのなかの画面でもそうだった。ずっとみてしまう。それは描いている人の、肉体の頑健さが絵ににじみ出ているのかもしれない。生きものとしてのしぶとさを線から勝手に感じている。

 スマのことを調べていると、かわいいおばあちゃんが絵筆をにぎり、動物を愛し、生の讃歌を描いている、という文脈で紹介されていることが多い。スマのことを知りたくていくつかのサイトをみていたら死因が刺殺だったことを知り、ほのぼのとした絵のように印象づける文章と死因のインパクトの落差に驚き、みなかったことにしたくてwebを閉じた。死因が人生のすべてのように思えるのはおかしいことなので、絵をみるときはそのことを忘れるようにしている。

 死のことにかかわらず、私にはスマの絵は明るさやかわいらしさとは違うもうすこしおそろしいものが潜んでいるような気がする。

命のあっけなさ

 スマは「原爆の図」で知られる丸木位里・俊夫妻の母で、息子位里の妻俊のすすめで、70代から描き始めたらしい。川や山で育っているから野良仕事で動物も身近に感じていただろうし、みょうがの絵とかお花畑の絵は、命がみなぎっている。でもそれを生を肯定していると書くと急にうそくさい。うららかさとか、ハッピーな雰囲気とは全く違う肯定のあり方なのではないかと思っている。横死しているものの上を平然とまたげるような人の描く絵。生きることは苛烈で、背後にはたくさんの死があることを知っている人の絵じゃないかと思う。何が起きても仕方がない、とあきらめたうえでいま目の前の景色をいいなあとながめているような。スマの目線はかなり人情ばなれしている気がする。こんなふうにただみることができる、ことが怖い。だから、ほのぼのとさせすぎたり、明るさを強調しすぎると軽薄でスマの絵のものすごさが遠くなる。

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