『裏庭のまぼろし』石井美保著、イシイアツコ絵/亜紀書房
『隣の国の人々と出会う』斎藤真理子/創元社
『言葉果つるところ〈新版〉』石牟礼道子・鶴見和子/藤原書店
戦争に関わる本が今年も多く刊行されたが、新しい語り方が登場したと強い印象を受けたのが石井美保『裏庭のまぼろし 家族と戦争をめぐる旅』だ。タンザニアなどで調査を行ってきた文化人類学者である著者は、若くして戦死した大叔父の遺品と手紙を実家で見つける。一兵卒だったと思っていた大叔父は、陸軍の将校としてアジアや太平洋の各地を転戦していた。そして最後に沖縄に派遣され、第三二軍の司令部の中枢にいたことがわかる。
若きエリート軍人として戦争を生きた大叔父。著者はその人生をたどりながら、近親者として、また文化人類学者として、当時の彼が見えていなかったものや見ようとしなかったものに目を向ける。そして、大叔父がその立案に重要な役割を担ったはずの作戦によって犠牲と苦難を強いられた人々の声を聴くために、沖縄、そして台湾におもむくのだ。
何のためにこの本は書かれたのか。それは、死者の言葉や生きのびた人の声を、今生きている人たちに伝えるだけではなく、死者たちのもとに送り還すためでもあると著者は書く。言葉も声も、生者だけのものではないという考え方に胸を打たれた。
斎藤真理子『隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ』は、韓国文学翻訳の第一人者である著者が、韓国語のマル(言葉)、クル(文字)、ソリ(声)、シ(詩)、そしてサイ(あいだ)について語る。言葉と出会うことは人と出会うことであり、他者への理解のとば口に立つこと。平明な文章でこれほど深い思索がなされることに驚く。
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