「始発だから朝のラッシュでも座りやすくて……」
こうしてもったいぶってみたが、結論からいえば小手指は典型的な住宅地の駅である。地上の線路とホームをまたぐように駅舎が建つという、どこにでもある橋上駅舎。そして南北の出入口いずれにも立派なロータリーが設けられていて、周囲はイトーヨーカドーなどの商業施設、そして高くそびえるマンションに囲まれている。電車に乗っていた人たちも、みな小手指駅を降りてそのマンション群へと消えていった。小手指駅の正体は、何の変哲もない、そしてわざわざ“何か”を求めて行くほどのことでもないベッドタウンの駅であった。が、これで終わってしまうとさすがにツマラナイ。町の人に少し話を聞いてみた。
「だいたいが始発に乗れるから朝のラッシュでも座りやすいし、それでいて30~40分で都心まで出られるから悪くないんですよ」(50代男性)
「私は20年前に引っ越してきたんですけど、最近も増えてますよね。やっぱり近からず遠からずで、便利なんです」(60代女性)
「小手指のみどころですか? いや~、考えたこともないけど、自然は豊かだと思いますよ」(30代男性)
う~ん、まあやっぱり典型的なベッドタウンの町である。
ベッドタウンになったのは1970年以降
歴史を少し紐解くと、この小手指がベッドタウンとして発展したのはどうやら1970年代以降のようだ。駅の開業がそもそも1970年11月20日で、その直前の1966年に開設された小手指検車区(現在の小手指車両基地)にあわせて駅もできた。それまでの小手指は地図にも「小手指原」と書かれていたように、ただの野っ原。そこに車両基地と駅が生まれたことで、「小手指ハイツ」なる分譲マンションができたりしてあっという間にベッドタウン化していったのである。
戦後になって新たに生まれたベッドタウンというと、「〇〇ヶ丘」「△△ニュータウン」といったキラキラ地名を与えられるパターンが多い。西武池袋線沿線のひばりヶ丘にしたって、近くのひばりが丘団地から頂いたもので、別に雲雀がたくさん生息していたとかそういうのとは無関係だ(たぶん)。ところが、小手指も似たような戦後のベッドタウンの町なのに地名がずいぶんと難解である。わざわざ読みにくい地名を後付けするとは考えにくい。どんな由来があるのだろうか。