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70歳以上の2人に1人が降圧薬を飲んでいる

 実は、降圧薬を一番飲んでいるのは高齢者です。厚生労働省の「平成29年度国民健康・栄養調査」によると、70歳以上ではすでに「半数以上!」の51.7%もの人が降圧薬を飲んでいます(余談ですが、こんなたくさんの人が薬を飲めるなんて、なんて日本は恵まれた国なのでしょう)。それなのに、さらに服用者が増えかねないようなガイドラインにして、本当に大丈夫なのでしょうか。

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「厳格治療」でリスクが下がるように見える理由

 前述した通り、血圧は薬を使ってでも厳しく下げたほうが、心筋梗塞や脳卒中のリスクが下がるのは確かなのでしょう。ですが、ガイドラインに掲載されている研究データを見ると、14試験を統合した複合心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)の発生率は、「通常治療群」が約5.90%(イベント発生数1762/被験者合計29827)なのに対し、「厳格治療群」は約5.79%(同1384/23905)でした(この研究では試験ごとに重みづけがされているため、リスク比は0.86と算出されている)。

 また、13試験を統合した脳卒中イベントの発生率は、「通常治療群」が約2.44%(727/29764)なのに対し、「厳格治療群」が2.16%(同516/23839)という結果でした(同じくリスク比は0.78と算出されている)。なお、「全死亡リスク」については、「差がない」という結果でした。

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 つまり、130/80mmHgをめざす治療をすると、将来(数年後)、心筋梗塞や脳卒中になる確率を0.11%、同じく脳卒中になる確率を0.28%減らせるわけです(リスク比で見ると複合心血管イベントのリスは14%、脳卒中は22%減らせることになるが、2つの発生率を比べた相対的な割合を出しているので、数字が大きく見える)。

 この差をどう評価するか、その人の価値観によって異なるでしょう「心筋梗塞や脳卒中が怖いから、リスクが下がるならもっと血圧を下げたい」という人もいるでしょう。そうした人は薬を増やすなりして、厳しく血圧を管理すればいいかもしれません。また、リスク低下効果はごくわずかでも、国民全体が厳しく血圧を下げれば、心筋梗塞や脳卒中になる人が、年間何千人単位で減る可能性があります。ガイドライン作成委員の方々は、そうした点も重視しておられるのでしょう。

 しかし一方で、「これくらいしかリスクが減らせないなら、そこまで厳しく血圧を管理したくはない」という人もいるでしょう。ちなみに血圧は、「減塩」「DASH食(野菜、果物、低脂肪の乳製品を多く摂り、肉類や糖分を控える食事)」「減量」「運動」「節酒」「禁煙」などの生活改善で下げられるとガイドラインにも書いてあります。こうした健康的な生活を心がければ、薬は飲まなくてすむかもしれません。