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抗日100周年で続々とロードショーされる韓国「反日映画」の試写会に行ってみた

北村一輝と池内博之は鬼気迫る演技

2019/08/06
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目立つのは日本軍の残虐さばかり

 ウォン監督は前作『殺人者の記憶法』(2017年)ではアルツハイマーとなった元連続殺人犯を主役にしたクライムサスペンスを撮り、絶賛され、韓国でも期待される映画監督のひとり。

 また、主演の3人も韓国では演技派として知られ、なかでも映画『タクシー運転手』にも出演したユ・ヘジンはファン層も厚く、他のふたりも旬な俳優。そんな監督とキャスティングから映画はてっきり、朝鮮独立軍が日本軍に初勝利した、その痛快といわれる戦略と、日本の朝鮮半島統治に屈しないという精神的なものが描かれるのだろうと思っていたら……。

 冒頭から、日本軍の卑劣で無慈悲で残忍なシーンが続いていく。朝鮮の農村を襲い、妊婦を強姦し、子供や老婆に銃口を向け、弾を放ち、情け容赦などひとかけらもない――。

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主役3人のシーン。左からチョ・ウジン、ユ・ヘジン、リュ・ジュニョル。いずれも人気俳優だ  ©ShowBox

 その一方で、一見荒削りで無鉄砲にみえる独立軍は、犠牲者を出しながらも日本の正規軍兵士をばったばったと倒し、苦境に陥ってもどこかコミカルで、捕虜にした日本兵には慈愛をもって接して、最後には、その目で見たことを記録し、伝えてくれと解放する。

 息を呑むような渓谷の壮大な風景、谷間を縦横無尽に走り回るアクションなど映画としての見所もある。しかし、135分のストーリー展開の中で印象に残ったのは強烈な殺戮シーンばかり。すべてがそれでかき消されてしまった。

韓国人の友人は「がっかり」

 ウォン監督は、「被害の歴史を描いた映画が多かったが、『鳳梧洞の戦闘』は抵抗の歴史、勝利の歴史についての物語。この映画を通して国権が奪われた時代を見るパラダイムが変わればと思う」(映画試写資料より)と話している。

谷間での戦闘シーン。日本軍との残虐シーンも多い ©ShowBox

 しかし、韓国が誇りとするその痛快なはずの戦法の描き方には丹念さが欠けていて、観客がストーリーに追いつきにくい。劣勢と思われた独立軍が日本軍をおびき寄せて最後のシーンで大どんでん返しという、おそらく観客から歓声があがることを想定しただろうシーンでも、どよめく声は漏れなかった。一緒に観に行った韓国人の友人に感想を訊くと、ただ深くため息をつき、「がっかり」。不利な闘いに知恵を集めて皆の力で勝利したという肝心なところがぼやけていたと話していた。