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鬼気迫る演技の北村一輝と池内博之

 映画を観たという韓国紙記者に訊くとこんな答えが。

「抗日映画とひと口に言っても今は映画としての完成度の高さに人が集ります。『鳳梧洞の戦闘』は愛国心に訴えるだけの“クッポン”(国=クックと、麻薬のヒロポンを掛け合わせた造語)映画ではないかという批判も公開前からすでに出ていて、主演の俳優をみて、1000万人動員するのではないかという声もありますが、正直、興行はさほど伸びるとは思えません。あまりにも血が多すぎました。俳優がいいだけに残念です」

 ところで、この作品には、日本の越境追撃隊大将と中尉、独立軍に捕虜となる少年兵役に、それぞれ俳優の北村一輝と池内博之、醍醐虎汰朗が出演している。映画への出演の決め手が何だったのかは知る由もないが、北村と池内のその演技は鬼気迫っていて、身震いするほどリアリティを感じさせるもので、醍醐も繊細な少年兵役で観客の心を揺り動かした。

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日本軍大将役の北村一輝(左上)と中尉役の池内博之(右上)、右下は少年兵役の醍醐虎汰朗 (試写資料より)

“抗日”だけでは韓国人の心は動かない

 特に、北村演じる大将は、当時、朝鮮半島に生息していたとされる虎を屠るシーンで登場するが、その目つきや声といい、冷徹さがピリピリと伝わってきた。虎はソウル夏季オリンピック(1988年)や平昌冬季オリンピック(2017年)の大会のマスコットになっていることから分かるように、朝鮮半島では畏敬の対象でもある特別な動物。虎を当時の朝鮮と見立てたのか。その意図は分からないが、日本軍の残忍さばかりが目立ったのはもしかしてふたりの迫真の演技によるものなのかもしれないとも思ったり。

 7月25日には慰安婦問題を扱った『主戦場』が公開されたが、反応は鈍い。

『鳳梧洞の戦闘』の翌日には、また慰安婦ハルモニを追ったドキュメンタリー『キムボクトン』も上映される予定だ。

 ただ、韓国ではもう“抗日”というテーマだけで単純に人々が喝采を叫ぶ時代は終わっている。冒頭に紹介した抗日映画の中でも『マルモイ』はヒットしたが、『自転車王』は“クッポン”とされて興行に失敗した。ただ、日本による「ホワイト国除外」で一般の人々の思いにどんな変化が起きているのか分からないが。

 それでも、映画評の厳しい韓国で、『鳳梧洞の戦闘』はヒットにはならず、に筆者は賭ける。