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プロパガンダは昔話ではない

 いつの時代も、政治はそのとき一番人気の芸術やエンタメと結びついてきました。古くは音楽が政治的に広く使われました。一部の知的階級が読む新聞よりも、音楽のほうがより多くの人に伝わって感情を刺激することができた。フランス革命時の軍歌であり革命歌であった、後のフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が好例です。

 プロパガンダは昔話ではありません。最近で言えば、動画サイトやSNSが、政治の宣伝に利用されています。身近な例で言えば、今夏の参院選で、日本共産党が選挙運動のために動画アプリTikTokを使ってダンスを投稿していました。自民党が「アート広告」と称した安倍晋三総裁のイラストは、人気ゲーム「ファイナルファンタジー」のキャラクターデザインを手掛けた天野喜孝さんが描いたもの。政党が党首を美化した絵を作成して、イメージを広めるという典型的なプロパガンダといえるでしょう。

展示中止となった「少女像」 ©共同通信社

「本当にプロパガンダといえるのか」を考える

 もちろん、プロパガンダかどうかはよくよく考えなければならないものもあります。今回の「表現の不自由展・その後」を巡る一件は、「政治と芸術の関係はどうなっているのか。そしてこの作品が本当にプロパガンダといえるのか」を考える大事な機会でした。

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 仮にプロパガンダだったとしても、展示するという選択肢だってなくはありません。展示会場でどういう作品説明が付いているか、どのように配置されているかで、意味が中和されることもあるのですから。だからこそ、会場に足を運ぶことが重要だったのです。その結果、「こんなもの、表現の自由に値しない。下品で、幼稚」という判断もありえたでしょう。

 脅迫という犯罪行為で、ひとりひとりが考える、せっかくの機会を奪われたことが残念でなりません。

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