国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止となった騒動を受けて、「週刊文春デジタル」が緊急アンケートを実施したところ、「『慰安婦』少女像の展示に賛成ですか? 反対ですか?」という質問に対し、回答者の74.9%が「反対」と答えた。政治と文化芸術の関係を論じ続けてきた辻田真佐憲氏に、今回のアンケート結果の感想を聞いた。
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今回のアンケートに対するコメントをはじめとして、社会の反応を見ていると、展示反対派の「これは政治的な意見を表明する『プロパガンダ』だ」という意見と、展示賛成派の「展示中止は、表現の自由を脅かす『検閲』だ」という意見が気になりました。
実際に、自民党の保守系議員で作る「日本の尊厳と国益を護る会」も8月2日の会合で「芸術や表現の自由を掲げた事実上の政治プロパガンダ」と断じました。一方、「表現の不自由展・その後」実行委員会は展示中止の決定を受けて8月3日に「戦後日本最大の検閲事件」であると抗議声明を発表しました。
「プロパガンダ」と「検閲」が誤用されている
しかし、政治と文化芸術の関係を研究している私からすると、「プロパガンダ」「検閲」という二つの言葉が歴史的な文脈からいささか離れて使われている気がしてなりません。両方とも強い言葉ですから、よくよく吟味して用いる必要があります。さもなければ、またいつもの左右対立に回収されかねません。
そもそもプロパガンダは、公的な組織が行うものです。つまり、政府や政党が直に関与していることがポイントであり、独立したアーティストが行う政治的な表現はオピニオンの一種と考えるべきでしょう。検閲も、政府が原則として法律にもとづいて行うものですから、今回の展示中止に至る事態を、ただちに「検閲」と断じていいものかどうか。各政治家の言動やその影響を精査しなければなりませんが、少なくともいまの段階で「戦後日本最大」とまでいってしまうのは早計だと感じます。