――韓国挺身隊問題対策協議会の運動が種族主義を拡大させたのではないですか。
李 彼らは基本的に政治団体です。左派の政治団体で対立関係を作ることが目的なのです。このようなめちゃくちゃな運動体に、韓国政府は何もすることができなかった。韓国政府の外交権より強い団体です。このような政府は、政府ではありません。慰安婦問題で韓国政府は内部から解体されたと思います。私はそのことを韓国の国民に伝えたかったのです。
――現在の日韓関係の悪化は慰安婦問題、徴用工問題が核心部分です。こうした政治問題に学者としてできることとは何でしょう。
李 私はこの2つの問題で韓国政府が内部から解体されたと思っています。そのうえでさらに、この2つの問題によって韓国人の「種族主義」の歴史認識はどんどん強くなってきました。そして文在寅政権が成立したのです。危ない、とおもいます。私はあくまで研究者ですから研究者として、その危険性を国民に告発するだけです。それ以上、私にはできないです、ハハハ。
――それでも経済史学者として韓国の歴史認識を批判する先頭に立っておられます。歴史観の偽装や創作だけでなく、その背景にある「反日種族主義」についてはどのような考察から思いつかれ、さらに発展的に展開されたのですか。
李 私は2016年、自書の「韓国経済史」を完成しました。構想から執筆まで約14年かかりました。古代史から全般的に検討して書き直しました。私が研究者として誇りをもっている本ですが、この過程で、今までの韓国史に関する通説と私が新しく再編した韓国史がいかに大きな差を持っているか思い知るようになりました。この格差は何かと。何か根本的な問題があると。私の学問は近代的な実証に基づいています。しかし、これまでの韓国史(歴史認識)には根本的な問題があるとの疑問を抱くようになりました。
ただ単純に保守とか進歩とか左右とかではない。また大韓民国を否定するとか、そのような政治的な問題ではなく、もっと根本的な文化的な問題があることに気がついたんです。それで探しあてたのが種族主義でした。われわれ韓国人の心のなかですね、流れている心性とか文化として常軌的に流れているものは何だろうか。それが種族主義でした。
一種のシャーマニズム、宗教的な流れが強い集団的な心性なのです。民族主義とか反日感性とか、いろいろな歴史の認識を背景とする文化があった。それが種族主義だと気づいたのです。2、3年前のことです。我々韓国人の集団的な心性を分析するのは非常に意味があると思いました。そのときからこの本を構想し始めました。
――種族主義を背景に韓国の歴史認識を考えるということですね。
李 そうですね、すべての国民は歴史的文化的に集団の心性があります。いままではそこまで韓国の学者は気がついたことがないです。日本もそのような心性があると思うのです。
――あると思います。天皇制、神道などには日本人の心性があると思います。
李 私は経済史学者ですが、考察の幅を広くしました。これは普通の民族主義ではなく一種の病理的な精神現象としての種族主義だ。そのように思うようになりました。そして具体的な説明をしたのがこの本なのです。
予想通り激しい反発がありますが、それは当然のことだと思います。自分の文化の弱点とか、恥ずかしい点をそのまま指摘したのです。しかし私は、韓国人がそれを乗り越えなければならない、それは先進的な市民とか自由人になるために、世界人になるために必要なことだと思っているのです。
久保田るり子 産経新聞編集局編集委員 國學院大學客員教授
成蹊大学経済学部卒、産経新聞入社後、1987年韓国・延世大学留学。1995年防衛省防衛研究所一般課程修了。外信部次長、ソウル支局特派員、外信部編集委員、政治部編集委員を経て現職。編著書に「金日成の秘密教示」(扶桑社)「金正日を告発する―黄長燁の語る朝鮮半島の実相」(産経新聞出版)