このたび、「文春オンライン」でスタートする『文春野球コラムペナントレース2017』という企画に参加させていただくことになった。私は虎党であるからして、阪神タイガース担当のコラム執筆者である。タイガースについては、これまでも各メディアで自分なりの言論を発信してきたため、今回もその調子を大きく崩すことなく、地道に取り組んでいきたい。

成長途上の若虎が過剰に報道されてしまう、阪神ならではの光景

 さて、第1回のテーマは阪神の若手選手、俗に言う若虎についてである。今季の阪神には糸井嘉男という大きな目玉が加入したわけだが、それはあくまで表向きの看板、あるいは短期的な和製助っ人という意味であって、本当に重要なのは昨年から続く若手育成路線の火を絶やさないことだろう。特に高山俊、原口文仁、北條史也、岩貞祐太といった昨シーズン一軍で頭角をあらわした若虎たちには一層の飛躍を期待したいところだ。

 阪神報道が盛んな在阪マスコミも若虎たちに注目しており、連日のように彼らの動向を伝えている。おかげで関西では、まだ規定打席に達したことのない原口や北條であってもそこそこの有名人だ。こういう成長途上の若虎が過剰に報道され、それによって不当に知名度が上がってしまう、さらに周囲からチヤホヤされるといった事態は、これまでの阪神にもよくあったことだ。一説には、だからこそ阪神の若手は自分がスターになったと錯覚しやすく、それが成長の阻害につながる場合もあるという。期待の若虎を取り上げるのは阪神報道としては当然のことで、我々ファンもそれをありがたく享受している部分はあるのだが、その一方で悪しき伝統が繰り返されないかと不安にもなってしまう。

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若虎とは対照的なオリックスの若手の扱い

 そんな中、先日たまたま大阪在住のオリックスファン男性(推定60歳超)と話す機会があった。彼は私が虎党だと知るや否や、「阪神はええなあ。高山とか原口とか北條とか、どんどん若手が出てきて」と嘆きだしたため、私が「オリックスにも吉田正尚がいるじゃないですか。彼、すごいですよね」と言うと、「いや、まだまだや。短期間でバカスカ打つ奴はこれまでもちょくちょくおった。問題は今季どこまで伸びるかやで。せやないと、阪神の選手みたいにマスコミに取り上げてもらわれへん」と渋い顔で返された。

 正直、複雑な気分になった。オリックスの吉田はルーキーだった昨シーズンの後半から一軍に定着した選手だが、わずか63試合の出場で打率.290、10本塁打、34打点の好成績を残した。シーズン終了後に台湾で開かれたウインターリーグでも18試合で打率.556、本塁打6本と大活躍。短期間とはいえ、若手の一気の躍進、あるいは未来の主砲につながるスケール感という意味では、原口や北條以上だろう。

 しかし、そんな吉田でも在阪メディアに大きく取り上げられることはない。同じ関西に本拠地を置く球団ながら、阪神の若手とオリックスの若手はメディア露出量に圧倒的な差があり、だからこそ先述のオリックスファン男性は慎重な姿勢になるのだろう。

昨季、122試合に出場した北條史也 ©文藝春秋

関西メディアが多用する「昨年ブレイクした北條」という言葉に感じるモヤモヤ

 一方、我が阪神はどうだ。人気球団ゆえに関西の各種メディアが期待の若虎を大きく取り上げるのはしょうがないのだが、その取り上げ方において「昨年ブレイクした北條」という文言をよく見聞きするから、少しモヤモヤしてしまう。私は虎党だから、北條のことはもちろん応援している。もっともっと成長してほしいと心から願っている。しかし、そう願っているからこそ、北條はまだ“ブレイクしていない”と言いたい。

 昨年の北條は確かにシーズン後半からベテラン・鳥谷敬に代わってショートを守る機会が増えたが、それはレギュラー奪取への足がかりをつかんだというだけで、繰り返すが規定打席にも達していないのだ。122試合の出場で、打率.273、本塁打5本、打点33。さすがにこの成績で「昨年ブレークした」と言うのは気が早すぎるだろう。

 もちろん、ブレークとは昨今のスポーツメディアの常套句みたいなものであり、その定義も個人の主観によるところが大きい。また、阪神だけに限った話ではなく、他球団の選手にもよく使われているだろうから、あまり深く考えないほうがいいのかもしれない。

 しかし、そうやってモヤモヤを抑えつつも、ついつい他球団で「昨年ブレークした」という表現が多用されている選手を調べたところ、奇しくも北條と同学年の広島・鈴木誠也が目立っていたから、余計にモヤモヤが大きくなった。なにしろ、昨シーズンの彼は129試合の出場で、打率.335、本塁打29、打点95。規定打席にも初めて到達し、広島のリーグ優勝に大きく貢献した。これぞ、文句なしのブレークである。

 関西のメディアでは、そんな鈴木と同じ言葉で北條のことを称えているのだ。そう思うと、私はモヤモヤを通り越して恥ずかしさを感じてしまう。虎党としては北條の名前が広く知られるのは喜ばしいことなのだが、それが人気球団ゆえの過剰な称賛を伴うものであれば、なんとなく他球団から笑われそうな気がする。

 だから、私は先述のオリックスファン男性のように、期待の若虎に対してはどこまでも慎重な姿勢を貫きたいと思っている。自慢の我が子を誇示するのではなく、不肖の我が子を見守っていきたい。件の北條は去る2月25日に行われた「阪神vs日本ハム」のオープン戦で、二本のホームランを放った。もちろん、うれしい。期待感もさらに高まった。

 だけど、まだまだ慎重に、慎重に。控えめに、控えめに。