どんな人が健診を受けるべきなのか
また、健診で異常が見つかり、治療が開始されることもよくあります。読者の中にも、血液検査で異常値が出て、高血圧薬(降圧薬)、コレステロール低下薬(スタチン)、糖尿病薬(降血糖薬)などを飲むようになった人がいるのではないでしょうか。こうした検査や薬の中に、本当は不必要なものが少なからず含まれていると、多くの専門家が指摘しています。
チュージング・ワイズリーの健康診断の項目でも、米国では必要性の低い健康診断に年間3億ドル(約330億円)がつぎ込まれ、追加の検査や治療のために数十億ドル以上が浪費されていると書かれています。健診が無批判に行われている日本でも、無用な治療や検査にかなりの医療費(つまり、保険料や税金)がつぎ込まれているのは間違いありません。
もちろん、検査が必要な人もいます。この項目であげられているのは、「体調が悪い」「病気の症状が出ている」「慢性の症状が続いている」「新しい薬の効果を調べる」「喫煙や肥満などのリスクをもっている」「妊娠中で母体のケアのため」といった場合です。しかし、逆に言えば、こうした問題がなければ、ふだん健康な人は、健診や人間ドックを受ける必要はないのです。
学校や職場での健診が義務づけられている日本のおかしさ
にもかかわらず、日本では学校や職場での健診が義務づけられています。医療保険者に対しても、40歳以上75歳未満の被保険者(地域住民など)に対する特定健診・特定保健指導、いわゆる「メタボ健診」が義務づけられています。世界的に有効性が疑問視され、「不必要で害も多い」とされる健診を、国が人びとに押し付けているのです。
私は、健康な人の「異常」をわざわざ見つけて、検査や治療にお金をつぎ込むような政策は間違っていると思います。それより、なるべく病気にならないように、健康的な運動や食事をサポートし、禁煙を推進する政策に力を入れたほうが、よっぽど人びとの健康に寄与し、お金もかからないはずです。
がん検診と同様に健康診断も、そのあり方を見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。日本の国民医療費はとうとう40兆円を超えました。国民皆保険制度のおかげで医療機関に支払うお金が少なく、医療費を安く感じているかもしれませんが、40兆円うち9割近くは、私たちが支払う健康保険料と税金で賄われています。
私もそうですが、高額な健康保険料の支払いに負担を感じている人が多いはずです。価値の低い医療にお金をつぎ込んでいたら、国民皆保険制度が破綻してしまうかもしれません。医療費の無駄を減らすためにも、「賢い選択」をしなければならない時代なのです。