優位な立場を利用した“性暴力”
部屋に行くと、「風邪をひいたときは風呂に入り、上がったら布団をかぶって汗をかき、また風呂に入って……を繰り返すんだ」と広河氏に言われた。麻子さんは指示に従ってベッドに横になった。すると少しの間を置いて、広河氏はおもむろにセックスをし始めたという。
「私はセックスする気はありませんでした。高熱でフラフラだったうえ、当時は抗うつ剤を飲んでいた。そのことは広河さんも知っていました。意識がもうろうとした中でセックスをさせられたんです」(麻子さん)
その翌年、後述する智子さんの被害を知ったことで、「私も性被害を受けていたんだ」と麻子さんは気づき、広河氏と完全に決別したという。
繰り返しセックスをしたのなら、嫌だったとはいえないのではないか――。杏子さん、麻子さんの証言に、そんな疑問を覚える人もいるだろう。
だが、その道の先達、職場の上司、学校の教師など「指導する側の人」が優位な立場を利用して、若輩や部下、生徒など「指導される側の人」と性的行為に及ぶのは“性暴力”の典型だ。齋藤梓・目白大専任講師(被害者心理学)はこう語る。
「当事者に上下関係がある場合、上位の人の誘いを下位の人が断ることは、その後にその世界での生活を失うリスクなどを考えると難しく、かなりのエネルギーが必要です。そのため、同意はしていないが明確に断れない場合もある。また、一度関係をもつと断ることがさらに難しくなりますし、『性的被害にあった』ことを受け入れがたい心理から、本心とは裏腹に関係が続く場合もあります。
性暴力被害者は自分を責める気持ちが強く、PTSDや抑うつ感などの苦しみが長期にわたって続く傾向もある。人生への影響が非常に深刻な被害です」
じつは、杏子さんと麻子さんには、広河氏と望まないセックスをしたこと以外にも共通点がある。
裸の写真を広河氏に撮られているのだ。
杏子さんが広河氏に全裸の姿を撮影されたのは、ホテルでセックスをした後だったという。
「とくに断りもなく何枚か撮られました。広河さんはカメラの液晶画面を見て、『大人っぽいねえ』などと言っていました。嫌悪感を覚えましたし、あとになってどう使われるかわからない恐怖を感じました」
一方、麻子さんが裸身を撮られたのは、成田空港近くのホテルだった。広河氏は次の日、海外へ渡航する予定だったという。浴室で服を脱いでシャワーを浴びるところや、ベッドの上で裸で寝転がっているところを広河氏にシャッターを切られたと麻子さんは語る。
「以前から『ライティングを教えてあげるから、君のヌードを撮りたい』と言われていました。そのときは撮影の勉強になると思っていましたが、あとから、立場を利用されて裸を撮られたんじゃないかと疑問を感じました」
この2人の他にも、広河氏にヌード撮影をされたと証言する女性がいる。12年春に広河氏のアシスタントをつとめた智子さんだ。
採用時、広河氏から「これはアシスタント祝いだ」と、シグマのレンズを手渡された。そして、「このレンズで撮影しよう。撮り方を教えてあげるから、僕にも君を撮影させてほしい」と言われたという。
その後、智子さんには以下の文言のメールが広河氏から届いた。
「(5月)20日の新宿ハイアット・リージェンシーを抑えました」
「近くの新宿中央公園や街中で1―2時間撮影し、ホテルに戻って、食事するか、撮影を開始するというのはどうですか」
当日、都庁付近などで道行く人々の撮影をした智子さんは、広河氏とともにホテルの部屋に戻った。すると広河氏から「変なことはしないし、どこにも公表しないから君のヌードを撮りたい」と言われたという。
「これからお世話になる師匠なので断りにくかったですし、どういうふうに撮られるのか興味もありました。それで裸になると、髪を濡らしてほしいとか、いろいろ指示されました。途中で広河さんの鼻息が荒くなってきて、気持ち悪くなりました」(智子さん)
広河氏からは「今夜は部屋を取ってあるから」と言われたが、智子さんは「家族が心配しているので」と言って電車で帰宅した。智子さんは後日、このとき撮影された写真のデータが入ったCDを、都内の漫画喫茶で広河氏から受け取ったという。