藤沢周平、松本幸四郎──それぞれの父としての姿
遠藤 松さん、去年出産されて、実生活でも女の子のお母さんになられたんですよね。母親役を演じるのに、気持の上でなにか変わったことってありますか?
松 もともと子供は大好きで、接する機会も多かったんですが、お芝居をするときは、あまり「子供」だから、と思わないようにしてきましたね。それは今も変わらないです。
母親になって変わったこと、というのは、自分ではよく分からないですねぇ。
遠藤 私は息子が1人いるんですが、子供を産むと、自分の両親との距離が縮まりますよね。実家にもよく顔を出すようになるし。息子が生まれたばかりのころの父の手帳を見たら、一日おきぐらいに「展子来る」って書いてあって(笑)。そんなに行ってたつもりはなかったので、自分でびっくりしちゃいました。
このドラマの撮影中、お父様(松本幸四郎さん)とお母様が、お子さんを見ていてくれることもあったんですって?
松 ありましたね。いま1歳2ヵ月なんですが、私が実家に連れていくと、前に会ってから2、3日しかたってないのに「大きくなっちゃったねぇ」って、ずっと会ってなかったみたいに父が言うんです(笑)。
遠藤 「大人になって、子供が出来てみて、やっと親の苦労がわかる」というようなことが、父の小説、『海鳴り』(文春文庫)の中に書いてあるんですが、本当にその通りだなって。
松さんとお父様が書かれた『父と娘の往復書簡』(文春文庫)を読みましたが、幸四郎さん、本当に早い時期から松さんに、「女優」として接していたんですね。娘と女優、両方の面をきちんと見ていらっしゃったんだなあ、と。
松 わ、懐かしい本(笑)。恥ずかしいなあ。
2006年から2年間にわたって、「オール讀物」誌上で父と文通をしたんです。芝居のこと・幼い頃のこと・家族のことなど、担当編集者の方にたくさん助けてもらいながら、なんとか毎回書きあげました。
遠藤 このなかで一番うらやましかったのが、2008年に「ラ・マンチャの男」でお父様と共演して、1ヵ月間毎日同じ舞台に立っていらっしゃった、ということ。私は父と小説について話したことはほとんどなかったので、こういう共通の話題を語り合える関係って、本当にいいなと思いました。
松 ありがとうございます。うちは普段は、家族で集まると、みんな好き勝手なことをそれぞれしゃべっていて、もう全然会話にならないんですよ。母がいるから、なんとかまとまっている、という感じで(笑)。
遠藤 今回のドラマは、石井ふく子さんが「ふつうが一番」というタイトルをつけてくださったんですが、これ、父がいつも言っていた言葉なんです。家族みんなが健康で、仲よく暮らす。これって誰にでも共通していえることですよね。
松 「ふつうが一番」って、簡単そうで実はすごく難しいし、奥が深い。このドラマは心があたたまる話でもあるし、一方で切ない気持にもなる。
家族みんなで見て、いろいろなことを感じてほしいですね。
遠藤 本当に放映が楽しみです。ところで松さん、次またぜひ、父の作品の映像化に出てくれますか?
松 また声をかけていただければ、ぜひ。