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誤解だらけのイラン問題 ウクライナ旅客機を撃墜した「革命防衛隊」の正体

2020/01/13

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 社会, 国際

コッズ部隊はテロ工作機関

 さて、そんな革命防衛隊で、ソレイマニ司令官が率いていたコッズ部隊は、報道では「精鋭部隊」と報じられていますが、それも間違いです。コッズ部隊は、海外でイランの支配圏を拡大する謀略工作を担う「工作機関」です。その過程でしばしば「テロ工作」も行うので、「テロ組織」でもありますが、国家の軍事組織の正式な機関なので、そこは「工作機関」でいいでしょう。

 コッズ部隊は80~90年代には主に、外国で反体制組織のメンバーを勧誘してイラン国内の訓練施設で鍛え、武器や資金を与えて本国に戻し、彼らが現地で行うテロ活動を監督する活動を行っていました。しかし、2003年のイラク戦争でスンニ派のサダム・フセイン政権が瓦解した後は、イラク政界で主導権を握って体制側となったシーア派勢力への浸透を図り、特にシーア派民兵に武器と資金を流してコッズ部隊の配下のネットワークを拡大していきました。その工作は90年代後半にコッズ部隊司令官に就任していたソレイマニが主導しています。

埋葬されるソレイマニ(2020年1月8日) ©AFLO

ソレイマニは英雄ではなく悪魔そのもの

 そして、ソレイマニが黒幕として操ったイラクのシーア派民兵は、スンニ派住民に過酷な弾圧を行っています。たしかにイラクに限っては残虐集団「IS」の放逐にシーア派民兵は貢献していますが、その後に乗り込んできたシーア派民兵の弾圧は大量殺戮そのもので、イラクのスンニ派住民からは「ISという悪魔がいなくなったら、親イラン派民兵という次の悪魔が来た」と言われるほど苛烈なものでした。

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 さらにその隣国であるシリアへも、ソレイマニは諸外国の配下を送り込んでいます。レバノンの武装組織「ヒズボラ」、イラクのシーア派民兵(中核は「殉教者大隊」。指揮官のアブ・ムスタファ・シェイバニは元親イラン派民兵「バドル軍団」幹部で、現在はコッズ部隊工作員)、さらに同じシーア派のアフガニスタン人であるハザラ人の傭兵部隊は、シリアで反アサド独裁に立ち上がったデモ隊の殺戮や、反体制派の住民の殺戮、反体制派の強い町を包囲・封鎖しての大虐殺など、戦争犯罪を厭わない冷酷で残忍きわまりない工作を進めてきました。

 シリアでは2011年以来すでに50万人以上もの人々が殺害されるというカンボジア内戦以来の大規模殺戮が行われてきましたが、その多くの戦争犯罪にソレイマニは責任があります。

 なお、こうしたソレイマニの悪行はイランでは一切報じられませんから、イラン本国では彼はあくまで「ISと戦った英雄」と宣伝されています。しかし、シーア派民兵に殺戮され続けているイラクのスンニ派住民、あるいはシリアの大多数の住民にとっては、悪魔そのものといえます。

駐日イラン大使館のツイート(2020年1月9日)

イラン大使館が感謝ツイート

 1月9日、駐日イラン大使館は公式ツイッターで「日本の世論と国民に対し、ソレイマニ中将の殉教に際しイラン国民に哀悼の意を表されたことを感謝する」と書いています。

 日本の報道では、イランでの英雄ぶりを無批判に紹介したため、ソレイマニがさも正当な英雄であるかのように報じられているものもありますが、彼はテロリストであり、さらに言えば戦争犯罪人の大虐殺者です。こうした客観的事実を押さえずに、イラン本国での英雄扱いぶりを報じたため、イラン大使館から「感謝ツイート」をされてしまったというわけです。
 

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