大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』が公開されたのは、クリスマスシーズンではなく、いまから34年前のきょう、1983年5月28日のことだった。
原作は、南アフリカ出身のイギリス人作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストの小説『影の獄にて』。第二次世界大戦中の南の島の捕虜収容所における日本軍人と連合国捕虜たちの対立と理解を描いたこの作品を、大島渚は当初、ハリウッドスターであるロバート・レッドフォード主演で映画化しようとした。しかしテーマがテーマだけにスポンサーがなかなか集まらず、結果的にレッドフォードからも出演を断られてしまう。
それでも、プロデューサーにイギリス人のジェレミー・トーマスを迎え、彼の紹介でミュージシャンのデヴィッド・ボウイが主人公のひとりセリアズ役(もともとレッドフォードが演じる予定だった)に抜擢されたほか、日本の軍人の役に大島の発案で坂本龍一、ビートたけしと異色のキャストがそろった。坂本はこのとき映画音楽も担当、たけしとともに同作を足がかりに映画の世界でも活躍するようになる。
公開直前に開催されたカンヌ国際映画祭ではグランプリを逃したとはいえ、いざ封切られると、製作関係者の予想を上回る観客を動員し、興行収入は約9億9千万円に達した。また、日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランドによる合作映画だっただけに、世界十数カ国でも順次公開されている。
劇中、印象に残るシーンは数多いが、なかでも坂本龍一演じるヨノイ大尉が、捕虜のセリアズに唐突にキスをされるシーンは話題を呼ぶ。ここで映像が一瞬、スローモーションになるのが効果を発揮していた。もっとも、これはカメラの故障でたまたまそうなったにすぎなかったことが、後年あきらかになっている。スタッフのひとりいわく「これは『戦メリ』という映画が神懸かり的についていたということなのじゃないでしょうか」(WOWOW「ノンフィクションW」取材班『「戦場のメリークリスマス」 30年目の真実』東京ニュース通信社)。同様の証言は、坂本龍一とビートたけしも、今年東京で開催されたデヴィッド・ボウイ(昨年1月に死去)の展覧会で流されたインタビュー映像のなかで口にしていた。いずれにせよ、出演した彼らにとっても思い出深いシーンだったということだろう。