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2017/08/14

『ドラえもん』から学んだ“別の経済システムを作り出す”こと

©石川啓次/文藝春秋

――「概念をコレクションしたい」という欲望は、その後どこに向かったのでしょうか。

千葉 集めるだけでは飽き足らず、「概念自体を作りたい」という欲望が芽生えてきました。でも思えば、そうした欲求の原点も子ども時代にあるのかも。というのも小学生の頃、オリジナルのカードゲームを作って遊んでいたことがあるんです。自分でモンスターを作って、名前を付けて、それをカードにして、ゲームのルールも作りました。

――売っている既存のゲームを買ってきてプレイするのではなく、ゲームを作ることからが遊びだったわけですね。

千葉 そんな子どもだったので、当時流行っていた「ビックリマン」などにも、そこまでハマらなかった。切手のコレクションとかもそうですけど、集めるにはお金がかかるじゃないですか。要するに、既存の用意されたルールや経済システムに乗っかって、そのなかで「どこまで上に行けるか」を競うことに、あまり興味を持てなかったのでしょうね。もっと言えば、他人の土俵の上で「勝ち組」「負け組」みたいな枠にはめ込まれてしまい、苦しい思いをするのもバカバカしいですしね。それなら、勝手に別の舞台を作ってしまえばいいじゃん、と。

――何かの影響もあったのでしょうか。

千葉 ヒントの一つは、『ドラえもん』だったと記憶しています。確か、スネ夫がすごい切手のコレクションを持っていて、例によって持っていないのび太が羨ましがる。で、どういう流れでそうなったのかは忘れましたが、のび太は瓶の王冠を集め始めるんですよ。僕は、友達とじっさいに王冠集めをするくらい、その話に感化されました。おそらく、既存のものとは別の経済システムを、自分で作り出すということに関心があったのでしょうね。そう説明すると、なんだかラディカルな小学生みたいですが(笑)。

――確かに(笑)。

千葉 オリジナルのカードゲームにしても、友達も同じようなことをやっていて、お互いの作ったカードを交換し合うこともしていました。この話でのカードや王冠というのは、いわば仮想通貨、地域通貨みたいなものです。つまり僕らは、別のエコノミーを、別の価値体系を作るみたいな遊びをずっとやっていた。今、僕が自分なりの新たな概念を作り、それでもって一つの哲学システムを構築することをしているのも、そうしたルーツがあるからかもしれない。思えば、「DIY(Do It Yourself)」という言葉が出てきたのも、僕が小学生の頃のことです。その延長線上にあるという意味で、僕がやっているのは「DIY哲学」なのでしょうね。

※「喋る・寝る・本を読む……哲学者は常に“動いている”――哲学者・千葉雅也インタビュー #2」に続く

©石川啓次/文藝春秋

ちば・まさや/1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。哲学/表象文化論を専攻。フランス現代思想の研究と、美術・文学・ファッションなどの批評を連関させて行う。現在は、立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。著書に『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生変化の哲学』、『別のしかたで――ツイッター哲学』、訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で――偶然性の必然性についての試論』(共訳)がある。今年5月には『勉強の哲学 来たるべきバカのために』を出版し、「東大京大で一番読まれている本」になった。

勉強の哲学 来たるべきバカのために

千葉 雅也(著)

文藝春秋
2017年4月11日 発売

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