窪田正孝と二階堂ふみの配役で話題になっている、3月30日スタートのNHK連続テレビ小説「エール」。昭和を代表する大作曲家の古関裕而とその妻・金子(きんこ)が主人公のモデルだが、その人となりはあまり知られていない。
とくに相対的に無名の金子はそうだろう。作曲家の夫を支えた良妻賢母? それとも、売れない時代も苦労をともにした糟糠の妻? いや、金子はそんな型にはまらない“豪傑”だった。『古関裕而の昭和史』を上梓したばかりの筆者が、その知られざるエピソードを紹介したい。
株取引に熱中して「株は芸術なり」
「株やってると生き甲斐を感じますわね。株やらない人は、なんだかバカにみえて……(笑声)」
金子は、1959年元旦付の『日本証券新聞』でこう発言している。なんと彼女は戦後、「失敗はほとんどありません」と豪語するほど株取引にのめり込み、金融メディアで「百戦錬磨の利殖マダム」と呼ばれていたのである。
1960年代初頭には、各種の投資情報に目を通し、週4回のペースで山一證券の渋谷支店に通っていたという。「慾ばらないで、一応目標額に来たら、確実に利喰う」と運用法を披露し、「確実なものとしては東芝、三菱造船」などと有望株を紹介する姿は、まさに玄人はだしだった。
もっとも、金子はもともと声楽家を目指していた。そのため、芸術にくらべて株など「なんとなく下俗」に思っていた時期もあった。だが、転がり込む利益の前に、そんな思いも吹き飛んでしまった。
だからこそ、ついにこんな発言まで飛び出した。
「自分が楽しんでいますこの頃では、“株は芸術なり”と云って憚りません」
このハッキリした性格は、見ていて気持ちがいい。
良妻賢母、糟糠の妻のキャラクターはもうやり尽くされた。今年は2020年。朝ドラでもぜひ、“トレーダー金子”の旺盛な活躍ぶりを再現してもらいたいものである。