新型コロナウイルスの影響で、スポーツの競技会が中止になり、またトレーニングが満足におこなえないなど難しい状況に置かれているアスリートも多い。
世界陸上選手権のハードル競技で銅メダルを2度勝ち取り、オリンピックにも3度出場。引退後はスポーツと教育に関するプロジェクトをおこなう為末大さんは日頃、アスリートを支援する活動もおこなっている。
オリンピックを目指すアスリートや、行事の中止に振り回されている人が、この特殊な状況の中でモチベーションを維持することは難しい。為末さんの競技生活晩年、記録が伸びずに走るモチベーションについて、悩んだ時期があった――。
※本稿は、為末大著『新装版 「遊ぶ」が勝ち』(中公新書ラクレ)の一部を、再編集したものです。
◆ ◆ ◆
「何かのために」走ってはいけない
競技生活を長く続けていると、モチベーションがだんだんに高まっていく時と、反対に落ちていってしまう時とを調整していく必要が出てくる。
モチベーションが高まる時とは、どんな時なのか。
何か法則のようなものが見つかるだろうか。
自分の中から自然と「やりたい」という意欲が出てくるのは、どんな状態の時だろう。
自分に起こる変化について、僕は観察を続けてきた。その経験から、いくつか見えてきたことがある。
たとえば、自分の見込みで「このぐらいいけそうだ」という読みが、「みんなが期待している」という値とぴたりと合致している時、モチベーションは高く意欲的になる。あるいは、周囲の期待よりも自分の期待値のほうが高い時も、やる気がいい感じで高まっていく。
反対に、世間の人々からの期待値が高くなってしまった時は、やらされ感、義務感が大きくなっていく。「何かのために」「日本にとって重要な役割」といったような使命感に、自分が縛られてしまうこともある。
2000年のシドニー・オリンピックは予選で敗退したが、2001年にエドモントンで開催された世界陸上では銅メダルを獲ることができた。47秒89という記録は日本新記録で、陸上の世界大会のスプリ
もちろん、僕にとっても最初の輝かしき銅メダルだ。
一瞬、僕のまわりは宴のような世界になった。
みんながすごく褒めてくれて、たくさん人から声をかけられ、メディアの取材が殺到した。『徹子の部屋』のゲストにまで呼ばれたりした。一種の、メダルバブル状態だった。しかし、それは長くは続かなかった。次の目標は何ですか、何色のメダルですか、という問いかけが始まる。