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新型コロナで「テキヤは商売あがったり」 暴力団業界を支える「洋上シャブ密輸」というシノギ

2020/04/05

genre : ニュース, 社会

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暴力団経由の供給過多で「値崩れ」

 国内で覚醒剤が大量に流通していることを裏付けるもう一つのデータがある。それは「末端価格」だ。

 警察庁によると、近年の末端価格は1グラムあたり6万円前後とされている。覚醒剤の一般的な1回の使用量は0・03グラムとされ、1グラムを購入すれば約30回分に相当する。

 覚醒剤の末端価格は、2009年ごろには1グラムで約9万円だったが、2010年ごろから下落し始めて、2019年には約6万4000円とされている。

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 末端価格の推移について、前出のベテラン警察庁幹部は、「供給過多の状況が懸念されている。覚醒剤使用者の需要に比べて暴力団サイドからの供給量が多いため、数年間にわたり徐々に値崩れしているのが実態ではないか」との現状分析を示す。

 暴力団が海外の薬物犯罪組織などから仕入れる覚醒剤の原価は1キロあたり800万~900万円とされている。ちなみに、年末年始は空港や港、沿岸部でも警察や税関などの取り締まりが強化されるため、密輸が困難になって供給量が減少することから、1キロあたり1000万円以上に跳ね上がることもあるという。

 こうした値段で仕入れた覚醒剤1キロを2019年の末端価格で売りさばけば6400万円となる。原価率は15%ほど。利益は莫大だ。過去最多となった2019年の押収量約2300キロが街で売買されたら、末端価格1グラム6万4000円で計算すると、売り上げは約1472億円、利益は1200億円以上となる。

暴力団の有力な「シノギ」となっている覚醒剤(写真はイメージ) ©iStock.com

「うまく仕事をすれば、短期間で大きな稼ぎになる。客は街のどこにでもいる。サラリーマンや家庭の主婦、街中の若い連中などいくらでもいる」

 前出の山口組系幹部がそう明かすように、街中で覚醒剤が確実に売れる一つの理由として、使用者の再犯率が高いことが挙げられる。

 近年の覚醒剤をめぐる使用や所持などの事件での摘発人数は年間1万人前後で推移し、再犯率は6割を超えている。一度でも使用したサラリーマンや主婦など一般市民らが繰り返し暴力団から覚醒剤を手に入れることになり、安定した顧客になってしまう背景もある。