以下、裁判の判決文を参照しつつ、何がいじめとして認められたのかを検証してみよう。
教師が生徒のいじめを止めなかったのは違法
東京地裁の判決では、公立学校設置者の安全保持義務は、学校教育の場自体だけでなく、密接に関連する生活場面でも、ほかの生徒からもたらされる生命、身体などへの危険にも及ぶ。つまり、「学校事故の発生すべき注意義務」があるとしたうえで、いじめについて次のように言及した。
いじめの問題を単なるいたずらやけんかと同一視したり、生徒間の問題として等閑視することは許されない状況にあるとの基本的認識に立って、その解決のためには、いじめへの予防及び対応等の緊急の措置とともに、生徒の生活体験や人間関係を豊かなものにしていく長期的な観点に立った施策が必要である。
教師は生徒の苦痛を予見できるか
一方で、「いじめの行為といっても、…(中略)…必ずしもそれ自体が法律上違法なものであるとは限らないのであるから、子供の人権上又は教育上の配慮から、それを規制するためにとり得る方策にもおのずから限界があって、多くの場合においては、教育指導上の措置に限定されざるを得ないことも明らかである」と述べ、いじめ自体が違法とは限らず、指導の対象に限定されるとも指摘する。
そのうえで、いじめの内容や程度、被害生徒と加害生徒の年齢、性別、性格、家庭環境などを考慮して、「安全保持義務」について考慮するとしている。くわえて、「(被害生徒に対する)身体への重要な危険又は社会通念上、許容できないような深刻な精神的・肉体的苦痛を招来することが具体的に予見されたにもかかわらず、過失によってこれを阻止するためにとることができた方策をとらなかったときに、初めて安全保持義務違背の責めを負う」とした。
つまり、条件付きだが、生徒にいじめがあり、教師が生徒の苦痛を予見できる場合、いじめを止めなかったことは違法であると裁判所は認めたのである。