おおた そうかもしれません。
高瀬 親御さんが偏差値に囚われていると、どんなに子どもが優秀に育っても、結局恵まれたひとの使命を果たせないと思うんですよ。中学受験というプロセスを通して、1人の人間として成長していくんだという大きな視野でのメッセージがところどころに織り込まれていますよね。
おおた たとえば「東大に合格できるのは、努力なのか環境なのか」という問題が毎年のようにネットで盛り上がると思うのですが、「第92講」の<あなた自身の努力がなければ合格はできなかった。でも一方で、あなたにはどうにもできない幸運が重ならなければやはり合格はなかったはずなんだ>というのが、私なりの答えです。
高瀬 そこは私も同感です。
「中学受験をさせられるのも、親の実力じゃない」
おおた 「第90講」の<私立の中高一貫校に通える状況にある子どもは実はものすごく少ない。その恵まれた環境から受けた恩恵を独り占めしてはいけない>の解説文には「わが子に中学受験をさせられるということも、親の実力なんかじゃないということを、親こそわきまえなければ始まらない」とも書いていて、「中学受験生たちに伝えたい」と言いながら、90番台のメッセージは完全に親へのメッセージなんです。
高瀬 私の気持ちも代弁してくれていると感じます。
おおた 昨年の東大での上野千鶴子さんの祝辞のメッセージともリンクしている話だと思いますし、おそらく『二月の勝者』の今後の展開においても重要なテーマになってくるんだろうと思います。この本の中では「第91講」の挿し絵として使わせてもらっていますが、主人公の黒木蔵人が塾講師として働く傍ら夜の街の片隅で「星を拾っては投げている」という部分の説明はまだ漫画の中では出てきていませんからね。この本の90番台は今後の漫画の展開への伏線になるんじゃないかという思いも込めて書きました。
中学受験は「親子でできる最後の二人三脚」
高瀬 でも、本をそのまま子どもに渡しちゃう親御さんもいらっしゃいますよね。
おおた いるでしょうね。それは怖いなと思って。