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「芝居にどれほどの力があるのか…」段田安則が問い直した“演劇の意味”と“新たな挑戦”への覚悟

段田安則さんインタビュー #2

「コロナを経た今の時代にも通じる」

――『女の一生』は昭和20年(1945)4月に初演された、非常に歴史のある作品ですね。

段田 終戦を迎える4ヶ月前に、渋谷の道玄坂で5日間にわたって上演されたのが、最初だったと聞いています。上演中でも、警戒警報が出るとお客さんを一旦外に出して、舞台上の役者やスタッフも避難。警報が解除されるとまた元に戻って途中から芝居を始める、というような形だったそうです。

 そんな命がけの状況でも、舞台に立とうという人間がいて、舞台を作ろうという人間がいて、そして舞台を観てやろうという人間がいる。そういう力を演劇は持っているんだな、というのは、コロナを経た今の時代にも何か通じる部分があるのではないかと思っています。

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――今回はその作品の演出を手がけられるわけですが、何か演出面で意識されているポイントはありますか?

段田 この作品をまだ観たことがない人にとっては、『女の一生』と聞くと、なんだかとても長い物語を見せられるんじゃないかと、そう思われるかもしれないのですが、実はそんなに長いお芝居ではないんです。たとえば主人公の布引けいを例にとりますと、作品の中では16歳から50代後半までの40年間を描いているわけですが、うまいこと4年とか6年とか13年とか、場面が飛んでいきます。

 すると、それぞれの場面で人物の扮装も変わっていくし、髪の毛も白くなっていくし、という変化が視覚的にも見えて面白い。お話としても、各人物が変わっていく様がわかりやすく書かれている本なので、そうした部分を大事にしたいと思います。

みんながみんな、思うような人生は生きられない

――段田さんも主人公・布引けいの夫となる、堤伸太郎役で出演されます。彼もまた、時代や環境に翻弄されながら、自分らしい生き方を求めてもがく人間だと思いますが、段田さんの中ではその人物像について、どのような印象を持たれていますか。

段田 この作品は戦争があった頃が舞台になっていて、例えば生まれたのがあの時代でなければ、兵隊にとられて死ぬこともなかったという人は現実にいっぱいおられたわけです。その中で、伸太郎という人物にも、もっと違う、彼に合った人生があったのではないかということは想像しています。

 

 でも、みんながみんな、そんな思うような人生を生きられるわけではないですし、仕事も結婚も、全てうまくいく人ばかりではないですよね。その時代時代で……それこそ今でも、コロナがあろうが何があろうが、それとなんとか折り合いをつけながら、自分らしい、自分が楽しいと思える人生を歩むしかないよな、という感覚は持っています。