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「映画とは画面に映っているものがすべて」 蓮實重彦門下の監督たちが活躍する‟コワい理由”

立教大「映画表現論」で学んだ真実

2020/11/17

 今年のヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した黒沢清監督の『スパイの妻』が10月16日に劇場公開された。続けて23日には青山真治監督の『空に住む』が封切られ、いずれも現在、公開中である。両監督は立教大学の先輩・後輩にあたり、在学時期こそ違うものの、一般教養の授業で蓮實重彦(現・東京大学名誉教授)による「映画表現論」を受講したという共通点がある。

蓮實重彦氏 ©文藝春秋

蓮實が映画監督たちに与えた響力の大きさ

 蓮實は母校の東京大学(文学部仏文学科卒)で教員を務めながら、立教大学でも1968年から10年以上にわたって講師として教壇に立った。同大学で彼に学んだ学生のなかからは、黒沢と青山のほかにも周防正行、万田邦敏、塩田明彦などの映画監督が輩出されている。東大の「映画論」ゼミの教え子からも中田秀夫や豊島圭介といった映画監督が出ており、蓮實の影響力の大きさがうかがえよう。

 先にあげたうち、黒沢清は1975年、万田邦敏は翌年、周防正行はさらに翌々年に大学に入学し、ほぼ同時期に蓮實の授業をとっている。周防は、以前から『映画芸術』などの雑誌で蓮實の文章を読んでおり、大学に入って履修科目の一覧にその名を見つけて驚き、「映画表現論」だけでなくフランス語の授業もとったという(※1)。

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周防正行監督 ©文藝春秋

 一方、黒沢は高校時代から8ミリで映画を撮っており、万田も大学に入ったら映画をつくりたいと思っていたが、蓮實のことは知らなかった。それも無理からぬことで、蓮實はこの当時まだ映画に関する著書は出しておらず、一般的には無名の存在だったからだ。

「何が見えましたか」と訊かれるクイズ

 黒沢たちより10歳近く後輩の青山真治も含め、教え子たちが口々に語っているところによれば、蓮實の授業では初回にクイズが出たという。小さな紙が配られたかと思うと、「いまから10の固有名詞を挙げますので、映画的に連想するものを書いてください」との指示。それも監督名や作品タイトルだけでなく、「5」とか「24」のような数字が挙がることもあったという(※2)。当然というべきか、たいていの学生は戸惑い、そこでまず受講者がふるい分けられていった。

青山真司監督 ©文藝春秋
「空に住む」 公式HPより

 

 授業ではこのあと、次週までにこの映画を見てくるようにと作品を指定され、次の授業では学生たちが1人ずつ「何が見えましたか」と訊かれるのが常であった。しかし、周防正行の言葉を借りるなら、そこで《間違っても映画の背景や、テーマについて答えてはいけない。本当に何が具体的に映っていたか、自分の目で見たものを答えなければならない》(※2)。