「解雇」と「自主退職」は何が違うのか
前提として、「解雇」と「退職届」の法的意味合いについて説明します。
解雇とは、使用者による労働契約の一方的な解約です。つまり、使用者が一方的に行うことなので、労働者の同意は不要です。一方、退職届を出すというのは、労働者による労働契約の一方的な解約です(「自主退職」などといわれます)。これについても、労働者が一方的に行うことなので、使用者の同意は不要です。
すでに説明したように、解雇は、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性がないとできません。特に、経営不振を理由とした整理解雇は、特に厳しい要件が必要になります。一方、自主退職については、法律上の期間制限(民法627条1項)さえ守っていれば、理由は不要で、自由に行うことができます。
「コロナ解雇」で退職届を書いてはいけない理由とは
このように、コロナ禍の解雇については非常に厳格な要件で判断されますので、使用者としては、後で労働者が解雇の無効を求めて裁判で争った場合、解雇が無効とされてしまうリスクを負ってしまいます。そのため、使用者側は、解雇ではなく、自主退職であるとの外形を残すために、退職届を書くように求めてきます。退職届を書いてしまうと、後に労働者が解雇の無効を求めて裁判や労働審判で争ったとしても、使用者側は「本件は、解雇ではなく、自主退職である」との主張をしてきます。裁判所も、退職届という動かしがたい証拠があるため、本件は解雇ではなく、自主退職であるとの判断をしてしまいます。
自主退職とされてしまうと、失業保険の給付期間、給付されるまでの待機期間についても不利になってしまいます。
労働者としては、一度書いてしまった退職届を取消すのは、非常に困難です。使用者に騙されて書いてしまった(錯誤・詐欺)、使用者に脅されて書いてしまった(強迫)などという事情を立証しなければなりません。
相談者の中には、「解雇だと、会社が助成金を受けられなくなって、他の社員に迷惑がかかる。退職届を出せば、他の社員が助かるんだから、書いてくれ」などと言われ、他の社員ためにやむを得ず書いてしまい、後悔している人もいました。しかし、そのように、退職届を書くように求められている場面のやり取りを立証することは非常に困難になります。
これが、私が「コロナで解雇だと言われたら、退職届は書いてはダメ」とTwitterで書いた理由です。解雇と言われても、絶対に退職届を書かないようにしましょう。