1ページ目から読む
2/5ページ目

当事者からの「怖い」という言葉に衝撃 

――まずは当事者の声を聞こう、と白石区議の発言からすぐに、性的マイノリティ当事者との意見交換会を3度も実施されていますね。

近藤 自分の人生を振り返って、性的マイノリティの方と出会ったという経験がなくて。でも、いろんな講座で「周りにいても気が付いていないだけだよ」と聞いてから、もしかしたら私は「この人には打ち明けられないな」という感覚を相手にあたえてしまっていたのかなと思うようになりました。

 施策を進める上では、やはりまず何に困っているのか、当事者の声を聞かないことには始まりません。そして、話を聞いて走りながらできることは何かを考えました。すでに区にはさまざまな相談窓口がありますが、委託業者に確認をしたところ「性的少数者からの相談も受けることができる」ということだったので、すぐに専門の相談窓口を設置しました。

ADVERTISEMENT

――実際に当事者との交流を通じてどのように感じましたか?

近藤 ある方に「親との関係もうまくいっているし、近所ともうまくやっている。ただ足立区ではとても怖くてカミングアウトできない」と言われてしまったんです。「怖い」という言葉が出てきたときに衝撃を受けて、区長としてとても申し訳ないなと感じました。

 これまでも高齢者や障害者など、いろんな人たちが住みやすい街づくりについて議論してきたのに、性的マイノリティへの対応が欠落していたのは事実です。どうせやるならタラタラやってられないなと、できる限り早く、スピード感を持って対応していく必要がありました。

「(足立区は)決して住んでいて怖い場所じゃない」という姿勢をはっきり示さなければならないなという思いで、パートナーシップとファミリーシップ制度を導入することにしました。

 

今ここで私たちの姿勢を出さないと

――制度導入はやはり苦労されたのでしょうか、それとも今回の発言がむしろ起爆剤になって進んだのでしょうか。

近藤 それは正直申し上げて、後者ですね。もちろんある程度議会のご理解をいただかなければいけませんから、何度も足を運んで説明をしました。

 先ほども述べましたが、もうすでに一区議の発言を超えて「足立区は性的マイノリティを排除する地域なのか」ということが問われている状況だったと思います。なので、表立って(パートナーシップ制度導入に)反対できる雰囲気ではなかったとはいえ、確かに反対の声は聞かれました。それでも「今ここで私たちの姿勢を出さないと」と伝えたら共感をいただくことができたと思っています。

――これまで政治家の差別発言が炎上しても、謝罪して終わりということが多かったと思います。謝罪に至らないこともあります。今回はむしろこの発言をテコに区が制度を導入するに至ったことは私も驚きました。

近藤 私も政治家ですからね。(白石区議と)同じ認識を持っていると思われることは許せないです。私にも私の考え方があって、それはいろんな人が安心して住める、そんな自治体を作ること。そのために選挙を戦い、区長をやっているわけですから。かっこつけているわけではありませんが、そんな私があの発言を許し、同調しているかのように誤解されることは、どうしても許せない部分がありますね。