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周囲の舌打ち、改札から乗車まで20分…健常者が知らない“車椅子移動のリアル”

2021/04/22
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乗り換え時間のロスも大きい

 車椅子は乗り換えの時間ロスも大きい。階段ならすぐの所もエレベーター(以下、EV)を2~3回乗り降りして遠回りする。仮にスムーズに乗り換えられそうな時でも殆どは駅員の側から「大事を取って10分後の電車で」と指定される。

 ちなみに歩ける知人達と話して初めて分かったのだが、車椅子で、特に一人で出歩いている時に、電車内や街中で舌打ちされたり露骨に嫌な顔をされたりする頻度はご想像よりずっと高いと思う。

 さて、私が会社員として毎日通勤していたころは、こうしてかかる時間を考慮し、出社したい時間の50分前には家を出ていた。今、グーグルで自宅から当時の勤務先までの経路を調べたところ、所要時間は24分とある。およそ倍だ。

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車椅子のルートはわかりにくく複雑、さらに誤った情報も…

 疎い場所の移動にはさらにハードルがある。駅や施設ごとの情報はあっても、車椅子のルートの全貌が分かるバリアフリーマップはまだまだ少ない。数年前から更新されておらず全く当てにならないこともある。従って、駅・商業施設・グーグル等を注意深く見比べて読み解く根気が要る。歩行者より遥かに複雑な行程を覚えるのは一苦労だ。

 入ってもEVが無い改札も多く、別の階などの改札へ大回りせねばならない。サインに従ったら急に階段が現れて10分ぐらい引き返すということもよくある。駅ではなく商業ビルのEVから入らねばならない事も多く、当然ビルの営業時間しか使えない。こうした罠には予備知識が無いと確実に嵌る。

©️iStock.com

 今でも思い出すのは、日本の中枢たる国会周辺での経験だ。溜池山王駅、国会議事堂前駅、南北線、千代田線、銀座線、丸ノ内線が複雑に入り乱れ、相互の行き来は階段に阻まれる。サインに従うと誤ったルートに誘導されてしまう。私が行った時は工事中のEVもあって混乱に拍車を掛けていた。手あたり次第に人に声を掛けて「向こうから入って」「隣の駅で乗って」などと色々聞き、10回くらいEVに乗り30分以上彷徨った。

 私にとってこの類の事は日常茶飯時だが、同行してくれた健常者は「異常だ」と衝撃を受けていた。車椅子のルートが分かるサインもあればいいのにな、というのは常々思う。