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「死」を恐れていた若き日

 したがって、今の段階ではまだ「死ぬとき心はどうなるのか」という今回の番組の問いかけに対して、私とNHKの取材班とが完全に答えを出せているわけではありません。しかし、問いに対する答えとは別に、私としては、一連の番組を通じて、「死は怖くない」というメッセージをいちばん伝えたいと思っています。

 私は今年74歳です。足腰は衰え、昔のように走ることも、階段を駆けあがることもできなくなりました。つい先日も、食事中に下の歯の一部が欠けてしまい、老いの進行を強く感じました。同級生たちも次々と死んでいますし、自分より若い人も亡くなっている。自分もいずれ、それほど遠くない時期に死を迎えるにちがいないということが実感として理解できるようになりました。その結果として、生に対する執着が弱くなりつつあります。「死は怖くない」という心境に私が到達したのは、今回の番組の取材を通じて臨死体験に関する新たな知識を得たからという理由以上に、年を取ることによって死が近しいものになってきたという理由があります。

©文藝春秋

 そういう意味で、私のように年を取った者の死と、若い人の死、あるいは不慮の災難、事故による死とは分けて考えるべきかもしれません。若いときは死を恐れるのが当たり前です。私自身、若い頃は、死が怖かった。高校生のときには自殺を考えるほど落ちこんだこともありましたが、死ねませんでした。文藝春秋を3年で辞め、哲学科に入り直すときに、私の頭をいちばん悩ませていたことも、死をめぐる哲学でした。

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 次回は、そのあたりについてお話ししたいと思います。

(取材・構成:サイエンス・ジャーナリスト 緑慎也)