文春オンライン

「私自身、若い頃は、死が怖かった」“臨死体験”を取材した立花隆さんが伝えたい、人間が“死んでいく”ときの気持ち

《追悼》立花隆さんインタビュー#1

2021/06/23
note

死の間際の脳の働き

 ここでちょっと、放送後に視聴者から寄せられた手紙を紹介します。

 差出人は、東京薬科大学名誉教授の工藤佳久氏。工藤氏によると、1991年放送の「臨死体験」を見て、この現象に興味を持ったそうです。そこで工藤氏は、ラットの脳細胞を使った次のような実験を行いました。記憶に関係があるとされる海馬の切片を虚血状態(局所的な貧血状態)に置いてみたのです。

 すると神経細胞の活動はどんどん低下していきましたが、驚いたことに5~10分程度経過したところで猛烈に活動しはじめ、その状態が数秒間続き、突然、すべての反応が消えたと言います。まるでロウソクの火が消える直前に激しく燃えるような現象でした。

ADVERTISEMENT

©文藝春秋

 ボルジガン博士の研究ではマウスの個体レベルで死の間際に生じた脳波が記録されましたが、工藤氏の研究では、ラットの細胞レベルでも死の間際の脳活動の活発化が見られたわけです。工藤氏は、この実験は非常に再現性が高く、「たった数秒程度の活動だが、これが臨死体験の実体かもしれないと考えている」(工藤佳久著『もっとよくわかる! 脳神経科学』羊土社)と言っています。

 ボルジガン博士や工藤氏の研究結果は、現行の脳死判定にも影響を及ぼすかも知れません。心臓が止まった後、だんだん弱くなっていく脳活動が、わずか数秒とはいえ突如、活発になる可能性が示されたからです。もしその間に臨死体験をしているとしたら、臨死体験の途中で生の最終段階が断ち切られてしまう恐れがある。脳死判定は相当の時間的余裕をもって行うべきです。