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ほぼ正方形で切り取られた白黒のホラー映画『ライトハウス』が“古風かつ斬新”な理由

『ライトハウス』――ロバート・エガース(映画監督)

2021/07/09

source : 週刊文春

genre : エンタメ, 映画

note

ほぼ正方形のアスペクト比で撮ると何が起こったのか

――この映画で採用された1.19:1というほぼ正方形に近いアスペクト比は、映画がサイレントからトーキーに移行する時期の映画でしばしば使われた比率です。このサイズで撮った結果、俳優たちが追い詰められていく雰囲気がより強調されたように思いますが、このアスペクト比で撮ることは、撮影の仕方にも影響がありましたか。

ロバート・エガース もちろんすべての部分が影響されます。何をやるにしてもこの画面比率を意識して、慎重にデザインしていかなければいけませんでした。今回は、灯台をはじめ、ほとんどの構造物は自分たちの手でつくっていたから、内装もすべてサイズを意識してデザインしていった。たとえば灯台のキッチンのテーブルは、俳優二人が座ったときにどんな画になるか、一番効果的になる形を探しながら用意していきました。

© 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

 最初は、撮影監督のブラシュケがジョークのように言い出したアイディアだったんです。僕としては、たしかに面白いけど実現するのはあまりにクレイジーかな、と考えていた。でもこれと同じアスペクト比で撮られたG・W・パプストの『炭坑』(1931)を見て、これでいけるぞ、と確信できました。炭坑という細長い空間のなかにいる炭坑夫たちの撮り方が、ほぼ正方形の画面と実に合っていたんです。『ライトハウス』もまた灯台という縦に長い空間にいる二人の人物を撮るわけだから、この画面比率がぴったりだと。それに僕自身、もともとシネスコよりはスタンダードサイズ(1.33:1)の方が好きなんです。新作『ノースマン(原題)』はスコープサイズ(2:1)で撮影したから、撮り始めたときに「この横のスペースはなんだ? どうしたらいいんだ?」と慌ててしまったくらい(笑)。

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――『ライトハウス』はたしかに恐ろしい物語ですが、見ていると不思議とユーモアが感じられ、ウィレム・デフォーとロバート・パティンソンはこの状況をどこか面白がりながら演じているようにも見えました。監督から見て、二人の俳優はこの異様な役を演じるのを楽しんでいたと思いますか。

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ロバート・エガース いや、決して楽しんではいなかったと思う(笑)。もちろん僕らはみな自分が撮りたいものを撮るためにこの仕事をしているし、どんな現場でも喜びを感じたり満足感を味わえる瞬間はあるもの。でもあの現場が楽しかったかと言われれば、ノーと言わざるをえない。とにかく緊張感のある撮影現場だったし、スケジュールが限られているなか、室内用の照明のセッティングにものすごく時間がかかってしまい、ひどく追い詰められていた。あの場にいた誰もがちょっとおかしくなっていたんじゃないかな。ひどい天気のなか、他に何もない場所に閉じ込められてひたすら仕事に従事する。まるで物語を鏡写しにしたような状況でした。そういえばA24が『ライトハウス』のメイキング映像を配信したんだけど、それを見てちょっとびっくりしてしまった。みんな笑ってる場面ばっかりで、僕の記憶のなかとは全然違う。きっと笑ってる場面を必死でかき集めたんだろうな(笑)。もちろん今はみんなお互いを大好きだけどね。