「だから僕は過去の物語が好きなんです」
――劇中で重要な場所となる灯台も自分たちでつくられたそうですが、灯室にあるあのものすごい光を放つレンズに驚かされました。あれはオリジナルでデザインされたものなんでしょうか。
ロバート・エガース いや、あの灯台の造形は時代考証的にはほぼ正確なはず。レンズはフレネルレンズといって、サイズは大きなものから順に1等から6等まであり、映画でモデルにしたのは4等のものです。カナダにあるケープ・フォーチューの岬に、新たに灯台のセットを建てて撮影したんだけど、そこは1960年代まで実際にフレネルレンズを設置した灯台がある場所だった。地元の博物館には当時使われていたレンズが展示されていたので、その一部を参考にして映画用にデザインしました。実をいうと、このフレネルレンズを使いたいからこそ物語の舞台を19世紀に設定したともいえます。あのレンズはとても美しくて、どこか空想の産物のような、まるでジュール・ヴェルヌの小説に描かれた宇宙船のようでもあった。だからこそ、このレンズが物語のミステリアスなオブジェになると確信していたんです。
――この物語はマックスさんが書かれたゴーストストーリーを骨格にしつつ、1801年にイギリスのウェールズで起きた灯台守たちの事件を題材の一部にしているそうですね。監督は『ウィッチ』では17世紀の魔女伝説を、新作『ノースマン(原題)』では10世紀のバイキングを題材にされています。現代ではなく過去の物語に惹かれるのはなぜでしょうか。
ロバート・エガース 僕にとって過去はとても楽しいものだから。民話やおとぎ話、神話やオカルトに強く惹かれるんです。今ここにいる私たちが何者なのか、人類はこれからどこへ向かうのか、そういう深遠な問いはSFというジャンルで度々掘り下げられるけど、僕は同じ質問を過去において問いかけたい。そもそも私たちはどこからやって来たのか。過去の物語を通して自分たちが何者なのかを発見したいんです。それと僕は映画の世界作りをなるべく自分の手でやりたいと思っている。題材を徹底的に調べ、当時の雰囲気を再現する過程がとにかく楽しい。でもたとえば今、僕が使っている仕事机を再現しようとしたって、作業としてはなんの面白さもないでしょう。ここにはパソコンがあって、スマートフォンやいろんな機器があるだけ。それよりも、過去にあった灯台について勉強し、使われていたレンズを再現したり、過去の映画を参照して自分たちの手で同じ画作りを研究していくほうがずっとおもしろい。だから僕は過去の物語が好きなんです。
Robert Eggers 1983年アメリカ生まれ。長編デビュー作『ウィッチ』(15)がサンダンス映画祭で絶賛され、続く『ライトハウス』でアカデミー賞撮影賞にノミネート、カンヌ映画祭でも好評を博した。
取材・文=月永理絵
INFORMATION
『ライトハウス』
7月9日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
https://transformer.co.jp/m/thelighthouse/