完成した映画の「どこかホームメイドっぽい雰囲気」
――この映画はダブルXフィルムで撮影されたそうですが、デジタルではなくフィルムで撮影をした理由について教えてください。
ロバート・エガース この物語をどんな映像で撮りたいか、そのイメージは、撮影監督のジェアリン・ブラシュケとの間で当初からしっかり決めてあった。そして自分たちが求める映像を実現するにはダブルXフィルムで撮るしかないとすぐにわかりました。カーブのところで黒味が消える感じなんかはフィルムでしか出せないし、デジタルでも希望の色味を出せるか何度もテストしたけどやはり無理がある。そこで僕とブラシュケはエプシュタインが海の孤島を舞台に撮った『大地の果て』(1929)のレストア版をプロデューサーに見せ、僕らがやりたいのはこれなんだと説明し、フィルムで撮る必要性を理解してもらいました。彼も実際に映画を見て、「これならたしかに見たことがないようなものができるかもしれない」と思ったようです。さらにブラシュケは、エプシュタインが撮っていた当時と同じ色合いの画になるようレンズフィルターをカスタムしてくれた。当時使われていたのとまったく同じものを入手するのは不可能だったけど、ブラシュケは同じオーソクロマティックな画になるよう完璧にそれをつくったんです。そうした工夫を重ねてこの独特の映像を実現できたわけです。
ブラシュケはふだんから白黒の写真を正方形のフォーマットで撮ったり、それを自分の家のバスタブで現像したりしている人だから、そういう創意工夫はまったく苦にはならなかったらしい。他にも、撮影部のスタッフは色々な機材をカスタムしてくれました。結果として、完成した映画にはどこかホームメイドっぽい雰囲気が出てきたように思う。そしてそれは、フリッツ・ラングのサイレント期の映画にどこか似ている気がする。ラングの想像力があまりに先を行きすぎていて技術が到底追いついていないような、あの感じがね。