2人の女優の作品を、女社長が実現したことの“今っぽさ”
松本壮史の書く脚本は、俳優としての市川実和子に新しい物語を吹き込んでいるかのようだ。もともと演技力も高いのだが、超然としたモデル的なオーラをあえて崩してみせるユーモアや柔らかさが映画を包み、映画を、魅力的に牽引している。
休養していた期間中もモデルとして十分に活躍していたので、必ずしも俳優に再び軸足を移すつもりがあるかどうかはわからないが、これほど魅力的な人物を演じられるのであれば、もっと映画やドラマで彼女にふさわしい物語を見たい、と思わずにはいられなかった。「久しぶりの映画の現場で楽しかった」とインタビューで語る5年ぶりにスクリーンに帰ってきた市川実和子は、この映画の脚本と、俳優としての自分に手応えを感じているように見えた。
上記の『北欧、暮らしの道具店』公式YouTubeで、市川実和子と西田尚美の2人にインタビューをしているのは、「店長佐藤」という女性、つまり一代で家具ブランドを成功させ、映画制作などを次々と展開している佐藤友子店長である。知らずに動画を見ていればプロのインタビュアーと思うほどみごとな司会で、優秀な人物なのだろう。通常、映画会社でもない企業の一存でWEBドラマから始めた企画が、ここまでの高いクオリティを持って劇場映画にまで結実するのは極めて稀なケースだ。
実は筆者がこの映画を見たのは公開終盤だったので、この記事が出る頃にはかなり上映館は少なくなってしまっているかもしれない。だが、松本壮史という確かなモチーフとメッセージを持った映画監督と、1人の女性がゼロから立ち上げ成功した企業の資本が噛み合った、日本映画の佳作のひとつになりえていると思う。観賞後にパンフレットを購入しようと思ったら制作していないとのことだったのだが、企業の公式サイトやインタビュー動画がある意味ではパンフレット代わりになるかもしれない。
市川実和子という1人のスターの5年ぶりの映画復帰作でもあると同時に、彼女が背負ってきたある世代の夢と憧れに対する、再会と和解の物語でもある。劇場や配信などで見る機会があればぜひ見てほしい。
そして出来れば、また市川実和子が映画のスクリーンの中に帰ってきてくれることを望みたい。未来への憧れと現在への苦闘を象徴する市川実和子と市川実日子の姉妹は、モデルとしてだけではなく、俳優としてもこの国の表現にともに必要だと思うから。