「許容限度の範囲内」
これは、工場等から出る悪臭が住宅に及ぶことを規制するもので、工場等の敷地の境界線の「地表」の臭気を対象としている。この基準を定めている自治体は20%程度しかなく、上限値も10~21までバラバラだ。裁判長は、浦安市の数値を基にすれば「許容限度の範囲内」として(浦安市の上限値も山田さんの部屋の臭気指数も12)、加えて以下の通りに判断した。
「本件建物(マンション)に居住する者の生ごみの処理の利便と引き換えに発生した臭気であるから、居住者は、いわば自分の所有するマンションそのものに内在する問題として、上記法令の規制(前述の基準値)の場合と比べて高い受忍限度が求められると解するのが相当である」
原告代理人の弁護士はこう話す。
「人が家の中で快適に暮らす権利は当然あるのに、判決は、原告として主張した日本建築学会の推奨値については無視し、工場から出る悪臭を屋外で規制する場合と比べ、それよりも高い受忍限度を求めたのです。まして『利便と引き換えに発生した臭気』と言いますが、200世帯以上から発生する悪臭の被害をほぼ原告だけが負っており、納得できるはずがありません」
他の住人から理解が得にくい構造
加えて判決は、原告の部屋周辺にカラスが集まり、虫が発生したことについては、「居住者に不快な部分が発生している可能性があることは否定できないものの」としつつ、臭突管との因果関係の判断は避けた。
ディスポーザーの利便性が判決で強調されたが、ディスポーザーの設置は2000年代に入ると本格化して、近年は新築マンションの数十パーセントで設置されるという。
都内の不動産業者が話す。
「ディスポーザーはまったく問題のないところも多いのですが、一方で、臭突管から出る悪臭や機器の騒音に悩むマンションの住人がいる。問題は、悪臭にせよ騒音にせよ、特定の部屋だけが被害に遭うため、他の住人の理解が得られないことです。管理組合に苦情を言っても相手にしてくれなかったという話を聞いたこともあります。悪臭については潜在的な被害者は少なくないと思いますが、他の住人の反感を買ってまで訴える人は少ないでしょう」