「ハシゴを用意してハッチを開けて屋上に上がると、すぐに悪臭が漂ってきました。奥へ歩いていくと、私の2部屋のちょうど真上にパイプの排出口があり、近づいてみると異常な臭いがして顔をそむけてしまうほどでした」(山田さん)
これが臭突管の排出口であり、風の流れに運ばれた悪臭が山田さんの部屋を襲っていたのだ。
損害賠償を求めて建設会社を提訴したが…
山田さんが入居した当初は入居率が5割程度だったが、入居者が増えて完売に至るまでに処理する生ゴミの量が増え、当初の異臭は明らかな悪臭になったと見られる。
原因が分かると、山田さんはマンションを建設した東証1部上場の建設会社と交渉したが、悪臭を封じる手立ては取られることはなかった。住み続けるのは困難と判断して部屋の買い取りを求めたが、期間限定で買い主を探すという回答しか得られなかった。
18年2月、山田さんは契約の解除と、部屋の購入費用に慰謝料などを加えた損害賠償の支払いを求めて建設会社を提訴した。
裁判がはじまると、被告の建設会社は請求の棄却を求めた。
その主張は第1に、「マンションを販売する時に臭突管のことは説明した」というものだった。
マンションを購入する際には、契約上の重要事項が書かれた重要事項説明書が提示され、購入者はその説明を聞いて署名・捺印する。ディスポーザーと臭突管については特約条項として書かれ、説明したという主張だった。
「私は臭突管の説明は一切聞いていませんし、私が聞いた限りでは、他の住人も全員が“一切聞いていない”と言っていました」(山田さん)
今年1月18日、山田さんに重要事項説明を行った不動産会社の社員(宅地建物取引士)が証人として出廷し、山田さんに重要事項について1時間程度かけて説明して、ディスポーザーについても読み上げたと主張した。
しかし特約条項には、屋上に臭突管があり、「臭気等が発生する場合がある」としか書かれていなかった。また、説明した社員は「臭い」が問題になることは想定していなかったと認めている。