先述の壮大な洋上風力構想は、そんなタイミングでようやく検討されたのだった。経済産業省は2020年7月に洋上風力の官民協議会を立ち上げ、半年も経たないうちに野心的な目標までたどり着いている。そのスピード感からは、洋上に賭ける政府の意気込みが見てとれるが、欧州での産業化の流れから見ると、10年以上遅れているのも事実である。
洋上に先鞭をつけた唯一の企業
しかし、日本でも洋上風力の時代が確実に来ることを見越して動いていた企業もある。それが、再エネベンチャーのレノバだ。2000年に環境・エネルギー分野のコンサル企業として創業したレノバは、2012年の「再エネ特措法」を契機に再エネ発電事業に本格参入し、太陽光や風力、バイオマスでの発電所設置の実績を着実に積み上げていった。今や脱炭素の期待も相まって、時価総額は地方電力を超える約4000億円に上っている。
そんなレノバが洋上風力を検討し始めたのは、2015年にさかのぼる。この年、秋田県でバイオマス発電事業に出資し、地元との関係を深めるなかで、由利本荘市沖の洋上風力のポテンシャルを活かすためにいち早く動いたのだ。2017年には、このエリアに56万キロワット分の洋上風力を建設するべく、JR東日本系の企業らと3社で地元への協力要請を提出している。
当時は、洋上風力はFIT(再エネの固定価格買取制度)の対象にこそなっていたが、政府の長期ビジョンもなかったため、前例のない大規模な工事が必要とされる洋上風力の案件はリスクだらけだと思われていた。「まだ上場する前で、売上高も数十億円程度のベンチャーが、事業規模が1000億円単位に上る洋上風力に挑戦していく意思決定は、社内でも議論を呼びましたし、逆に言えばそれだけ洋上の時代を確信していたということです」と当時の幹部は振り返る。
2018年3月、レノバの木南陽介社長は筆者の取材に対し、洋上風力発電への参入の理由について、「風が吹くエリアが限られている日本で、発電量を増やすには陸上だけでなく、洋上を活用しないといけない」と語った上で、前例のない挑戦についてこう話していた。