エッセイの中の彩織さんは妙に「ご近所にいる人」っぽい
でも雲の上の人だとはいえ、彩織さんのエッセイを読むとちょっと安心させられるんですよ。「あ、この人はいい意味で『ふつうの人』なんだな」と思えて。文章自体はすごく素敵だし、類まれなるアーティストの才能をお持ちなのは明白なんだけど、心の部分はごくふつうな感覚をちゃんと保っていらっしゃるとわかるので。
アーティスト・文筆家として手の届かない天才というのは誰でも知ってる。それなのに、エッセイの中の彩織さんは妙に「ご近所にいる人」っぽいんです。だめなところもあるけれど、なぜか愛おしい。その人のダメっぽいところを知れると、ちょっとホッとしちゃいます。
ものごとに対する解決策が私とけっこう似ていたところも、親近感が増す原因になったかもしれません。小手先のスマートな解決よりも、ひたすら自分を追い込んで筋肉つけてどうにかして解決しようとするじゃないですか?
書いて発表するペースがまた恐ろしく早い
藤崎 その通りですね。似ているところがあるっていうのは私も思ってました。いえ、似ているなんて軽々しく言うのはおこがましいんですけれども。岸田さんの書くもののあの凄味は、他の人には出せませんから。お父様が亡くなられて、お母様の下半身が動かなくなり、弟さんに障害があって、お祖母さんにもいろんなことが起きたりとたいへんな環境で、私なんかそういうことがなくてもただ生きていくだけで苦労しているのに、この人はどうなっちゃうんだろうと読み進めていくと、その過程がめちゃくちゃおもしろくて、最後には笑ってしまう。たいへんさをユーモアで乗り切って、書くことによって自分も周りも救われるというしくみになっていて。この強烈過ぎるエネルギーはいったいどこから湧いてくるの? って読みながらよく思います。しかも、書いて発表するペースがまた恐ろしく早いじゃないですか。
岸田 私のは、町の中華屋がありえへんスピードでチャーハンを提供しているのと同じで、もともとそういう店なんだというだけですから。気にしないでください。
藤崎 たいへんさを笑いに変えてしまうのも、「そういうものだから」という感じで自然にできてしまうんですか?