『ねじねじ録』には、彩織さんの視点に愛がある
藤崎 たしかに。そう言われると、私にとってのバンドと岸田さんにとっての家族って、似たところがありますね。
岸田 そうそう、本当に……って、私から「似てる」とは言えませんよ。ウチにはSEKAI NO OWARIメンバーみたいな天才たちはいません!
藤崎 いやあ似てますよ。というか、私にとってバンドが家族に近いってことかな。「大変だからもう会わないよ、サヨナラ」ってわけにもいかない間柄だし。
岸田 『ねじねじ録』には、バンド解散も考えたって話が出てきますよね。けっこうキツい内容ではあるんだけど、彩織さんの視点に愛があるから、解散危機だというのに読み応えのある話になっていて、読めばいっそうSEKAI NO OWARIが好きになってしまう。あれは全ファンにも読んでほしいエッセイですね。彩織さんの優しいまなざしを通すと、ものごとの見え方が変わってしまうんだよなあ。そういう力を持っている文筆家って、なかなかいませんよ。まなざしの優しさでいえば、向田邦子さんと同じものを感じます。
「傷つくって人にとって大事なことかも」
藤崎 解散云々のときもたいへんな状況だったからこそ、書くことで考えを進めなくてはという気持ちはありましたね。読んでくれる方も、文章を通してSEKAI NO OWARIのことをもう一度見直してくれたりしたらうれしいです。
岸田 読むと新たに視点が増えるようなものこそ、私はいいエッセイだと思ってます。彩織さんの文章は、まさにそれ。傷つきやすいっていうのは自分が弱い証拠というのがよくある考え方でしょうけど、彩織さんのエッセイを読むと「傷つくって人にとって大事なことかも」「傷ついて、そこから這い上がっていける人こそたくましくて魅力的だな」って感じられる。傷つくのもまたいいものだな、っていう新しい視点が、私の中にしっかりと植え込まれるんです。
私はこれまで、障害を持った家族を抱えてたいへんな人、弱い立場の人、かわいそうな人みたいな視点で人から見られることが多かった。もちろんそういう視点もアリなんだけど、こんな立場だから得られたものだって山ほどある。車椅子の母のために買った手で操縦するクルマの運転とか、家族以外の人とうまくしゃべれない弟がコンビニで出遭った奇跡的なこととか。制約があるからこそ視点が増える。増えた視点を文章にして人に伝えられたら、おもしろさが連鎖していく。そうやってものごとがつながっていくのって楽しいですよ。