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選挙の投票用紙が「極上の書き味」問題…そのナゾすぎる正体とは?

2021/10/31

genre : ライフ, 社会

「スゴい用紙」なのに広く使われない理由

 そんな優れた素材なら、普通のノートになぜつかわないのか、と思われる方もいるかもしれませんが、この優れた特徴は、あくまで投票用紙としてであって、普通に使うにはデメリットもあります。

水性ペンで書くと……
擦るとすぐに消えてしまう!

 ユポはプラスチックなので、水性サインペンなどのインクは弾いてしまうので筆記することはできませんし、鉛筆で書いた文字も、擦れたときに拡がりやすく、汚れやすいというデメリットがあり、ノートなど日常の筆記用途にはあまり向いていません。

 ですから、ポスターやステッカーなど風雨にさらされるような印刷物のほか、アウトドアや野外の現場で使用される耐水ノート、おふろ学習用のノートなど、強度や耐水性が求められる現場で、印刷物として、あるいは筆記具などを限定することで活躍しているのです。

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「ユポ」に秘められた“夢と希望”

 ところでこの「ユポ」は、合成紙としてほとんど一般名称化していますが、「セロテープ」等と同じく商品名です。

 この合成紙を製造しているユポ・コーポレーションは1969年に石油化学系合成紙の企業化を目的に王子製紙株式会社(現:王子ホールディングス株式会社)と三菱油化株式会社(現:三菱ケミカル株式会社)の折半出資により設立された合弁会社。「ユポ(YUPO)」のネーミングは、三菱油化株式会社の「YU」と王子製紙株式会社の「O」をPaperの頭文字「P」で結びつけるという従業員のアイディアに由来するものだそうです。

 当時の日本は高度成長のもとで紙の需要が急増し、木材資源の枯渇が心配された一方で、石油化学関連の技術進歩はめざましく、見通しの明るい時代だったため、紙を代用するものとして石油由来の合成紙が注目され、1968年には、科学技術庁(現文部科学省)資源調査会によって「合成紙産業育成に関する勧告」が出され、多くの会社が研究開発に取り組み、各種の製造方法が考案され商業生産もされましたが、印刷や加工が難しく、紙の代用としては充分に普及するには至りませんでした。

 そうこうしているうちに1973年、79年のオイルショックによる石油の価格高騰や経済の停滞によってその多くは頓挫、撤退してしまいました。