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 最初にピンスポットを一人浴び、「あ、さてさて」と口火を切る清野桃々姫の立ち位置など、想像するだけで胸が痛くなるようなプレッシャーである。スベるか受けるか予測不能な空気の中、物語の設定を語らねばならない。初披露の時、清野はなんと14歳。一言も噛まないどころか、イキイキと弁士から眼鏡君の彼女に切り替わる素晴らしい演技を見せた。いやもう恐るべき最年少である。

セリフ入りのハロプロ名曲「シャボン玉」

 私はこの曲がここまで売れるとは思わなかったが、寸劇自体は最初からハマッた。昔から「セリフ入りの歌」が大好きだった、というのもあるだろう。

 ハロプロもセリフが入っている楽曲は、もれなくリピートする。「ねえ、ギュッとして 抱きしめてよ!」と叫ぶ面倒臭さがたまらない「シャボン玉」(モーニング娘。)。「ごめんなさい……今更遅いよね」という後悔が切ない「嗚呼すすきの」(スマイレージ)。どちらも毎回「くっ、最高!」と床に転がりながら聞いている。

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 セリフ入りはちょっとくすぐったいところもあり、好みが大きく分かれるとは思うが、歌は3分間のドラマ、歌手は演者であることを確信できる要素だ。

 BEYOOOOONDSの寸劇は、こういったセリフ入り楽曲に求められる「瞬発力と演技力」、そしてフォーメーションダンスに必要な「調和」が合体した、アイドルの表現の進化形のように思うのだ。斬新でどこか懐かしい、不思議な感覚になる。

12人全員が役を生きた「森ビヨ」の衝撃

 そんなBEYOOOOONDSが、その「寸劇」の成果を炸裂させたのが、今年4月、感染防止対策を徹底して開催した舞台「ハロプロ演劇女子部・眠れる森のビヨ」である。

 開幕中ツイッターの評判が凄かった。「すごいものを観た」と絶賛のコメントがドカドカと流れてきていたので、ネタバレを封印し待ちに待って、9月発売と同時にブルーレイを手に入れた。

「眠れる森のビヨ」という珍妙なタイトルに油断した。迷いこんだのは、想像の10倍美しくダークな森の中。夢と現の間をさまようような、悲しくも愛しい世界だった。

 夜寝る前に観たが失敗した。次の朝、自分がどの世界にいるかわからなくなってしまった。観た方はどうやって気持ちの整理をしたのだろう。教えてほしい……。

 ストーリーは「崋山高校演劇部の、何かが違う日々」、とだけ書いておこう。

「ハロプロ演劇女子部・眠れる森のビヨ」

 主役・ヒカル役の平井美葉はセリフ量が膨大だったが、観終るまで「大変そう」と一回も思わなかった。それほど台本のセリフを言っている感じではなかったのだ。役が憑依するというか、ゾーンに入るというのはああいうことなのかもしれない。

 そしてヒマリ役の島倉りか。ひとりぼっち、もしくは平井美葉と2人のシーンが多く、凄まじく孤独だったのではなかろうか。その孤独感を見事生命力に昇華させていて、彼女が泣くシーンでこちらも泣きに泣いた。

 私が目が離せなかったのは、カナエを演じる里吉うたの。リズム感と独特の浮遊感の使い分けが凄い。この人がいるといないとでは、きっと芝居全体のテンポの心地よさが全然違う。そして山上部長役の江口紗耶。男役が自然で本当に驚いた。THE ALFEEの坂崎幸之助さん的な、さりげないが、確実に場を包み込む大きな大きな包容力を感じた。

 誰か一人が飛びぬけて上手いというのではなく、12人全員が上手い。そして同じ方向を見ている。まるで精鋭が揃った小劇団のような空気さえ感じた「森ビヨ」。

 もう「ビヨ雪姫」だろうが「ビヨデレラ」だろうがなんだって観る覚悟はできている。できれば「ガラスの仮面」か「ウエストサイドストーリー」をやってほしい! 嗚呼、BEYOOOOONDSは観た後、次はあれもこれも、と欲が出る。