1ページ目から読む
2/3ページ目

ギロリとした生々しいものが充満している

 準備万端で迎えた展覧会の開幕前日。内覧会とオープニングレセプションには、大挙して人が押し寄せた。デザイナー三宅一生、ベネッセホールディングス最高顧問の福武總一郎、ノーベル生理学・医学賞の山中伸弥ら、親交厚い各界の重鎮もこぞって駆けつけた。

 開会式典の主賓は高円宮憲仁親王妃久子殿下で、挨拶に立ったのは小泉純一郎氏。

「私は変人と言われるが、安藤さんは超人だ。内臓を5つ全摘しながら、新しいものに挑戦する意欲を失わない。素晴らしい!」

ADVERTISEMENT

 がんを患い大きな手術を経験した後も歩みを緩めない安藤さんの姿を踏まえながら、小泉節を放った。

©飯本貴子

 話題性たっぷりに幕を開け、12月18日まで続く展示は、順調に観客動員を伸ばしている。功成り名を遂げた建築家の回顧展といった趣はなく、もっとギロリとした生々しいものが会場には充満している。訪れた人はおそらく、ひとりの表現者の現在進行形の挑戦を強く感じ取っている。

 展示の最初は「原点/住まい」と銘打ったセクションで、これまで手がけた住宅建築が模型や設計図、スケッチ、写真パネルなどで紹介してある。無数の建築例からのセレクト基準はといえば、

「観る側に何かを突きつけ、ものを考えさせる建築を選んであります。たとえば私の初期の建築『住吉の長屋』は、狭小な住宅の真ん中に中庭を設けてある。雨が降ればトイレへ行くにも傘をささないといけません。不便じゃないかとずいぶん批判も受けましたが、人の生活は快適さや便利さだけ追求すればいいのか。中庭の存在によって光や風を感じ、感覚を外に開くことがより大切ではないかとの思いを、この小さい建築に込めてあります。

 また『小篠邸』は、15度ほどの南向きの斜面に建てられた住宅です。ここで考えたのは、いかに立地を生かして、周囲の自然を取り込んでいくかということ。建築は常に土地との対話からできていきます。自然はいつだって一筋縄ではいきませんが、悪戦苦闘の跡を感じていただければ」

©飯本貴子

 すべての仕事で目指すところは、その場所にしかできない建築なのだと安藤さんは言う。そうしたポリシーをはっきり示すものとして、会場内には「場所を読む」と題したセクションも設けられている。中心となるのは、巨大なインスタレーション。30年余りをかけてひとつの島に7軒の建築をつくった、瀬戸内海の直島が紹介されている。

「ベネッセの福武總一郎さんと取り組んできたプロジェクトです。場所の個性に合わせて建築をつくり、それが風景に馴染んでいくには相応の時間がかかります。建てた後も主体的に関わり、育てていくことが建築には必要なんですよ」