文春オンライン

全く新しい「外来種」のような音楽だった…それでもドリカムが大人気グループになった“納得の理由”

『EPICソニーとその時代』より #2

2021/11/07
note

ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』との共通項

 そう、この「よっこらしょ」感が、この曲にはないのだ。最後の最後「♪今ならもっと」で、ようやっと【F】という主和音に落ち着くが、それも一瞬。その後もフラフラッとコードが変わっていく。

 この感じ、どこかで聴いたことがあるなと思い返してみると、ビーチ・ボーイズの名盤『ペット・サウンズ』(66年)が浮かんだ。

 「ルート(筆者註:コードの根音)に向かうことを執拗に避け続けるベース・ライン」─これは、山下達郎が書いた同アルバムのライナーノーツ(名文)で挙げられた『ペット・サウンズ』の音楽的特徴の1つなのだが、これは、落ち着かない=「よっこらしょ」感がないという意味で、「決して主和音に行かないこと」と音楽的に近しい意味を指す。

ADVERTISEMENT

 ここで《笑顔の行方》のクレジットに目を移すと「作曲:中村正人」。『ペット・サウンズ』の首謀者であるブライアン・ウィルソンと同様に、「ベーシストが作曲した」という共通項を発見するのだ。

 ギタリストやピアニストに比べて、ベーシストは低音から、つまり下から音楽を支えている。ベースの音1つで、曲の表情が微妙に変わるということを熟知している。そんなベーシストならではの、「下から目線」の繊細なコード感覚によって、《笑顔の行方》は作られたのではないだろうか。

 しかし、そんな風変わりな曲が、吉田美和の圧倒的ボーカルと、チャーミングなルックスによって、44.6万枚売り上げたのだから時代は変わった。この曲のMVを今回、30年ぶりに改めて見て、「ドリカムとは、まずは吉田美和のルックスだった」と痛感した。

 さぁ、EPICソニーから丸山茂雄がいなくなり、ドリカムがやってきた。

 90年代がやってきた。

【前編を読む】「楽しく歌い踊りながらも、目が決して笑っていない…」おニャン子クラブの“終焉”を見据えた渡辺満里奈の意外な"志向”

EPICソニーとその時代 (集英社新書)

スージー鈴木

集英社

2021年10月15日 発売

全く新しい「外来種」のような音楽だった…それでもドリカムが大人気グループになった“納得の理由”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー