声明は、ラストボロフは帰国の前日に姿を消したが、それに先立つ数日間、「妻と娘の待つ故国に帰る準備に忙しかった。友人の証言によると、ラストボロフは最近健康状態を害していて、今度の帰国を非常に喜んでいた。彼は帰国に備えて妻、娘、その他の親類のために土産物を買った。ラストボロフは24日、急いで旅行に必要な最後の買い物をしに行くんだと言った。それっきりラストボロフは市内から戻ってこなかった」と経緯を説明。
そうした事実と「ラストボロフに対するアメリカ情報部の特別な関心」を考えれば「ラストボロフのナゾの行方不明は明らかになってくる」と声明は言う。「以上全てのことは、ラストボロフが諜報を目的として在日アメリカ情報機関のために連行され、抑留されていると考える根拠を与えている」。
これに対して、「大使館は何も知らないばかりか、こうした個人的事件については何ら関知するところでない」というアメリカ大使館スポークスマンのコメントが同じ日付の毎日に載っている。同紙によれば、米極東軍スポークスマンもソ連側の非難を否定し、「事件については何も知らぬ」と述べた。
「大スパイ網暴露か」
実は元代表部の「米情報機関が抑留」という「発表」は、既に前日2月1日付朝日夕刊1面4段でAP通信東京電が掲載されていた。さらにロバート・アンスンAP東京支局長の記事は、2月2日付朝日朝刊にも載っている。「沖縄へ連行されたか」という見出しはまだしも、踏み込んだ内容で、情報源がどこかを想像させる。
アジアにおける最大のソ連スパイ網の正体が明らかにされた可能性がある。
信ずべき筋が語るところによると、元ソ連代表部員のうち残留の32名はソ連情報関係官である。米当局者たちは、これら32名の職員は米軍事諸施設ならびに日本の自衛能力ができるまで駐留する米空、海、地上軍についてスパイするため後に残されたものと信じている。
これらの32名は日本を自由に走り回り、日本にあるあらゆる米軍事基地や軍事施設の正確な所在地と規模について、ウラジオストックへ彼らの秘密無線で送ろうと思えばそうすることができたのである。
同内容の記事は読売にも「AP特約」で「大スパイ網暴露か」の見出しで見られる。その後元ソ連代表部から、行方不明になった当日、ラストボロフ書記官がアメリカ軍のバスに乗って姿を消したという情報が寄せられたが、警視庁はアメリカ軍に問い合わせた結果だとして否定。当時のアイゼンハワー・アメリカ大統領は2月3日の定例会見で、ラストボロフについて「いかなる情報も受け取っていない」と言明した。