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「武士道」「禅」…理想化される日本文化

 前述したル・モンド紙ではこの夏、「不良マンガの再来(Le retour des mangas « furyô »)」というタイトルの特集が組まれた。この記事以外にも、インターネット上には日本の不良マンガというジャンルをフランス語で解説する記事や動画が複数存在している。

 それらを見てみると、物語に登場する不良や暴走族などは、ただ殴り合いの喧嘩によって問題を解決したり友情を深め合ったりしているだけでなく、独自の「道徳的な規範」に忠実であるということが強調されて説明されているケースが多い。こうした観点は、「武士道」や「禅」などの日本の精神性が理想化、もしくは誇大視されがちであるという、フランスにおける日本文化の消費のされ方と重なるところがあり、興味深い現象である。

 また、こうした不良マンガ(furyô)の紹介記事で例に挙げられることが最も多いのは、ともに2000年代の初頭にフランス語訳が出版された、『GTO』と『ろくでなしBLUES』である。

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 特に前者はフランスの有料テレビチャンネルであるCanal+でアニメが放映されて以来、一定の人気を誇っており、そのことはPNLというフランスの超人気兄弟ラッパーが「Onizuka」という楽曲を2016年に公開したことからもうかがい知れる。

ヒップホップと日本のアニメ文化、なぜ親和性が?

 わずか数年の間にフランスのヒップホップ・シーンをけん引する存在までになったPNLによるこの楽曲は、その名の通り『GTO』の主人公の鬼塚英吉(おにづかえいきち)をモチーフにしている。

 なお映画並みの予算をかけて撮影された、この曲を含むPNLの4曲のミュージック・ビデオをつなげると、フランス・パリ郊外の不良グループの抗争を描いた、一つのストーリーが完成する仕掛けになっている。

 それは『GTO』とは比べ物にならないほど陰鬱で出口の無い日々を送る移民の若者たちの姿であり、現実のフランス社会の格差や暴力の問題をかなり誇張しながらもうまく描いている。そこには決して鬼塚英吉や花垣武道のようなヒーローは現れないのである。


 ヒップホップに代表されるようなフランスのアーバン・カルチャーと、日本のマンガやアニメ文化の間に見られる親和性については、これまでも識者によってしばしば指摘されてきた。例えばマチュー・ピノンは著書『現代マンガ史(Histoires du manga moderne)』(2019)において、少年マンガにおいて見られるような「男らしさ」の文化が、フランスのヒップホップ文化に浸透していることを指摘している。

 フランスでは1990年頃、日本のアニメの暴力性や性的表現が若者に与える影響を危惧する声が高まり、多くの政治家を巻き込む形で、一定の規制が行われた。同様に、ヒップホップ文化に対してもまた、似たような論争が生じ、政治家がこれを問題視してきたことは注目に値する。