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櫻井よしこが106歳の母を介護して考えた「日本的家族のあり方」

2018/05/04
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富裕層は年金を返上してはどうか

 私たちは同時に、「老後は国に面倒をみてもらう」ということを、あまりにも当然のこととしていなかったか、大いに反省する必要があります。

 老後は年金だけで暮らせるはず、口をあけて待っていればお上が何とかしてくれるといった甘い考えは捨てるべきです。たとえ老後であれ、自分の人生の責任は自分でしか取れないことに気づく時です。他力頼みの人生ではなく、自分の人生は自分で引き受けるという「自立」の精神を、今一度、確かめ直したいものです。

 たとえば定年後も収入源を確保する道を現役時代から考えておく、あるいは老後も率先して働きに出るなど、やれることは沢山あるはずです。自分から能動的に切り開いていかないかぎり、人生の道は開けないものです。

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 一方で、私たちは「共助」の伝統を取り戻す必要があります。日本には伝統的な美風として、富める人も貧しい人も、自分は後回しにしてでも他者を思いやる価値観が根づいていました。ところが近年、自分さえよければいいといった精神的な堕落と退廃が目立ちます。また、欧米の富裕層は寄付や還元に積極的ですが、対照的に日本の富裕層に慈善行為があまりみられないのは残念です。

 野村総研の2016年の調査によると、日本では資産1億円以上をもつ富裕層は122万世帯、純金融資産総額は272兆円におよびます。このうち資産5億円以上の超富裕層(7.3万世帯)の純金融資産保有額は75兆円にのぼります。アベノミクスによる株価上昇などを背景に富裕層の資産は増え続けており、13年と比較して、富裕層は20%、超富裕層は35%増えています。

 小泉進次郎代議士が、「富裕層は年金を返上し、『こども保険』など子育て財源を確保すべし」との提言をしていますが、私も基本的にその考えを支持します。

©杉山拓也/文藝春秋

せっかく長寿なのだから

「健康寿命」を延ばすことも有効な対策のひとつです。厚生労働省の平成25年調査などによれば、一般的なリタイヤ後の健康寿命は、男性でわずか6年、女性でも9年です。一方で、「要介護期間」は男性で平均9年、女性では12年にもおよびます。これでは、若い頃にどんなに楽しいことがあったとしても、人生の終末期にすべて吹き飛んでしまうでしょう。せっかく寿命を延ばしたというのに、長い老後のほとんどが要介護期間では、いったい日本は何のために長寿国になったのかと、悲しくなってしまいます。

 健康寿命を延ばすことは、医療・介護費用の削減にもつながります。厚生労働省の平成24年度報告書によれば、健康寿命の延びが平均寿命の延びを上回った場合、要介護2以下の人の状況いかんにより2011~20年の累計で最小約2.5兆円、最大約5.3兆円の医療費・介護費が削減されると推計されています。

 社会的コストの議論はさておき、せっかく日本は長寿の道を選んだのですから、人生の楽しみを模索しながら、積極的に生きようではありませんか。

 ピンチはチャンスです。日本だけでなく世界中の先進国が、高齢化の問題を抱えています。すでに日本以上のスピードで少子高齢化が進む中国ばかりか、今は人口ボーナスを享受している東南アジアやインドも、今世紀中には高齢化社会に突入します。もし日本が高齢化社会の問題解決モデルを構築できれば、この分野における先進国になれます。

 日本の伝統的な価値観のすぐれた点を見直しつつ、豊かな老後を取り戻したいものです。

櫻井よしこが106歳の母を介護して考えた「日本的家族のあり方」

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